第26話 2030年11月某日 (竜神池3)

「この鏡は…失敗作ということですか? 朝倉さん」

「失敗というよりは、元々、我々が使っても外宇宙へは繋がらないということです」

「多額の投資は無駄になったということですね…おかみにどう説明したものか…」

「これまでの経緯を含め、報告書はコチラで作成しますよ、保科さん」

「そうしていただけると助かりますが…やはり反射率の問題ですか?」

「いや、それは限りなくオリジナルに近づいてます、事実ミラーワールドは開いた…だからこそ、国家予算を割いていただいたんでしょ」

「紛い物の有効的な利用など交えて報告書をおねがいしますよ朝倉さん」

「紛い物…とは酷い言われようですね、これでも地球圏内の移動は可能なんですよ」

「ほう…つまり、本物と繋がると?」

「もちろん、外宇宙へ行けないのは我ら人類の問題なんですよ」

「どういうことです?」

「魔境の原理は簡単です、鏡を利用してコピーを作る、コピーされた空間には時間の流れがありません、A地点からB地点へ移動するのに時間と距離を無視できるが…あくまで自らが観測した場所までしか到達できない…つまり、観測者の視点を超えては移動できないんです」

「つまり…一度、観測した地点へは0距離移動が可能だけど、次の地点へは観測者が到達しないと行けない」

「そうです、簡単に言えば、一度行った場所へは自由に移動できる…それだけの物なんです」

「だから我らが観測できない場所へは行けない」

「それに、鏡には観測者が必要なんです」

「観測者…ですか」

「えぇ、観測者の記憶にない場所へは繋がらない…」

「行ったことのない国へは行けないと?」

「まぁ、そういうことです…保科さんアリス・クーパーご存じですよね?」

「報告書では」

「彼女はナイアガラから落ちたときに魔境へ到達した、その時の魔境の観測者は日本人だったんです、彼女は日本へ迷い出たものの、戻ろうとして再び魔境へ飛び込んだ…その際に魔境にいた日本人と入れ替わり観測者となったんです」

「それで時を止めた身体だけが日本へ残された…」

「えぇ、その後、観測者だった日本人はどうなったと思います?保科さん」

「さぁ? そんな記録は読んだ覚えがありませんが」

「その日本人は、政府に保護されたそうですが…そのあとは解りません」

「朝倉さんでも?」

「ARKでも…ということです」


 ………

「では朝倉さん、報告書の方はお任せしましたよ」

「えぇ、承りました…保科さん、内閣府は、コレを利用する気ですか?」

「さぁ、それは私のレベルではお答えできません…ただ…腐らない冷蔵庫としては価値があるんじゃないでしょうか…では」

 軽く会釈して保科はARKを後にした。


「冷蔵庫…言ってくれるな」

 朝倉が壁を軽く蹴った。

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