第24話 2032年3月某日(竜神池2)
「なんだい…コレ?」
肉の塊、それ以外に言ってみようもない。
相良の目の前で飛び散った肉の破片を回収している防護服の集団が忙しそうだ。
「3人食ったんだそうです」
「人を?」
「はい…その被害者の?」
相良が壁に張り付いた肉を指さす。
「いえ…被害者の遺体はすでに回収してます」
「じゃあ何?」
指を指したまま相良が鑑識に尋ねる。
「その…食った方の…」
「はっ?」
「いや…目撃者がいないもので…なんとも…」
「ソレで…彼らは?」
相良の指が防護服の集団に向けられる。
「いや政府からの…らしいです…我々も、彼らの作業待ちでして…」
「あ~…政府の…ね」
(なんだか…準備のいいことだな)
「コレがなんだか知ってたみたい…」
相良がボソリと呟いた。
「何か言いましたか?相良警部補」
「ん…いや…俺、帰るわ」
「はい?」
「いや…なんか出番じゃなさそうだし」
「いや、相良警部補は…専門家だと伺っております、現場では相良警部補の指示に従うようにと…」
「俺の?」
自分が何の専門家なのか?
ふと脳裏に『櫻井 敦』の顔が過る。
「やれやれ…思い出したくないこと思い出しちゃったな~」
「何をですか?」
「ん…いや…べつに…」
相良は理解していた。
こいつ等が去った後には何も残っていないということが…。
(内閣府は知っていたようだな、警視庁が持っている情報と同じなのか?)
あるいはイレギュラー?
「鑑識は、いつも通りにやってよ」
「しかし…」
「あのさ、俺の出番はココまでだと思うよ」
相良は現場であるマンションの駐車場を後にした。
「いるいる」
大勢の報道や野次馬の整理に追われる警官が対応に苦慮している。
人ごみを、かき分けてパチンコ屋に停めておいた車の中で煙草を咥える相良
コンコン
助手席の窓を叩く音に視線を左に移すと見知らぬ男が覗いていた。
(無断駐車で…って感じじゃないな~)
窓を少しだけ開けて
「なにか?」
「警視庁の…相良警部補?」
「どちら様で?」
「私、環境省の保科と申します、少しお話よろしいですか?」
「いや~、ちょっと用事がありましてね…またってことになりませんか?」
「失礼しますよ」
保科は車の前を指さした。
前方にスーツの男が1人…相良がルームミラーで後方を確認すると、やはり1人…。
(轢いても表沙汰にはならないんだろうけど…まぁ後味悪そうだな~)
相良が渋々助手席のカギを開けると保科はニコッと笑って入ってきた。
「保科さんだっけ、中年の男を車に乗せたくはないんだけどね~」
「仕事だと思って我慢してください相良警部補」
「警部補、警部補と連呼しないでよ、気にしてるんだからさ」
「失礼…相良警部補」
(コイツは…典型的な役人だな、友達にはなれないわコリャ)
そういえば自分に友達とかいたっけな?と考えると不思議なことに『櫻井 敦』の顔が過る。
そのあとで『花田』がタコ焼きを食っている姿が浮かんだ。
(なんだかな~)
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