第22話 2048年1月 (龍神池3)

「食欲がないの…」

「昨日も夜、食べなかったでしょ大丈夫?」

 顔色の悪い娘を母親が心配する。

 14歳、成長期であり心身が女性に変化する年頃、ときに体調を崩すこともあるのだろう…母親は、たいして心配はしていなかった。

 翌朝、中々起きてこない娘の部屋に入った母親は娘の変化に驚き、激しく後悔したのだ。

 彼女の娘は髪がほとんど抜け落ち、身体を丸めて息を荒げていた。

(SMP…)

 まさか自分の娘が…

 ベッドに横たわり身体を痙攣させる娘と目が合ったとき軽く悲鳴をあげてしまった。

「おか…あ…さ…」

 娘の声を聞いて我に返った。

 一瞬、我が娘に恐怖を覚えた…殺されるかと思ってしまった。

「大丈夫…大丈夫だから…」

 娘の手をしっかりと握って母親が呟く…自分に言い聞かせるように…。


 ……

「大丈夫なんでしょうか?」

「残念ですが…SMPを止める術はありません」

「そんな…娘は…?」

「私たちにできるのは…お気持ちはお察しします…」

「そんな…そんな…」

「奥さん、娘さんは、まだ若い…あるいは…」

「あるいは?」

「いえ…何でもありません」


 警視庁のSMP対策室に引き渡された中学生、拘束具で身の自由を奪われたまま車に乗せられていく…母親が我が娘を見送ることは無かった。

 娘は施設で研究対象となるのだ。

 それは容易に想像できる…できるからこそ…娘を見送れなかった。


 ……

「若いな…まだ子供じゃないか…」

「アナタだってココに来たときは、このくらいだったでしょ」

「俺の時とは違う…この子はSMPだ」

「そうね、ただの流行り病ね」

「……変わらないなビクニ…不死者にはウィルスなんて関係ないものな」

「そうよ…死ねないんだから」

(死ねないか…)

「ユキ、この子…」

「あぁ…自傷癖があるみたいだな、人にバレないようにだろうな、ふとももに…」

「知ってる? SMPは絶望がトリガーになるんだって」

「だからなんだ?」

「未来を捨てた結果が餓鬼ってことね」

「この子も…餓鬼になるんだろうな」

「さぁ…気が変わるってこともあるかもね」

「気が変わる?」

「死を前にすれば、思い止まることも…強い希望を求めることもあるかもね」

「…VAMP…はCOVID-19の亜種だろ?」

「霊獣なんて宿しているわりには、現実主義者ねユキ」

「不死者よりは…ね」

 カプセルの中で溶液に浸されている華奢な少女を挟んで話す男と女。

「この子は…向こうへ送るわユキ」

「……異存はないさ…好きにすればいい…」

 男は部屋を出ていった。

「向こうに魂を預けて…薬で進行を遅らせるだけ…こっちで5年…幸せ?」


 ……

「お帰りなさい…覚悟はできたかしら?」

 2年後戻ってきた少女にビクニが笑いかける。

 ジロッと睨む少女

「あなたは今から42番…フォウツゥ…餓鬼を喰らうだけの屍…その寿命は」

「5年でしょ…解っている」

 裸の少女が太ももの傷を指でなぞった…。

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