第1話 2050年4月某日 その1
「おじいさん…どうかしましたか?」
車いすに乗った老人の男性がグタッと倒れた。
押していた老婆が、車いすの正面に回り老人の身体を揺する。
「おい…まさか…」
ざわつくショッピングセンターに館内アナウンスが流れる。
「お買い物中のお客様、すみやかに非常ハッチへ避難してください、1階中央広場にて、SMPを確認しました、繰り返します、すみやかに各階の非常ハッチへ避難してください」
一斉に走り出す客、誘導する店員…そして頭部を食いちぎられた老婆…車いすからギクシャクと立ち上がる老人。
立ち上がった老人、異様に飛び出した漆黒の眼球が人ゴミで親からはぐれた子供を捉える。
ベチャッ…ベチャッ…と溢れ出る体液で濡れた体を左右に揺らしながら子供に近づく。
「瞬間固着液、一斉噴射‼」
老人の後方から透明な液体が怪物に噴射される。
ビキッ…ビキッ…と老人の身体が固まっていく。
その隙に、防護服の集団が子供を抱き上げ、老人を取り囲む。
「ガガガッ…ギグゥ…ガァァァァァ‼」
老人が心身に力を込める。
固まった接着剤にヒビが入る。
「やはりダメか…時間稼ぎでいい‼ 外には出すな‼
(クソっ‼
固着液が切れて…すでに8分が経過していた。
老人を包む様に凝固した接着剤は乾燥し内側からヒビが入っていく…。
「隊長、もう持ちません…」
「餓鬼の活動限界まで6時間ほどはあるか…今、餓鬼が自由になれば…何十人と食われるぞ」
「隊長‼ 特駆1名が3時間内に到着するそうです‼」
「3時間だと…クソっ…持ちこたえられるか?」
「3時間…」
隊員が諦めるように呟き項垂れる。
「グガァァァァァ」
バラバラと固着した溶液が床に散らばる。
「ダメか…
隊長が日本刀をスラッと抜く。
「
防護服の集団が老人を中心に輪を維持しつつ後方へ下がる。
と同時に8名の戦闘服を纏い日本刀を携えたブレイズが前へ進む。
「手足を斬り飛ばせ‼」
老人の左手はすでに自由になっている、3人のブレイズの刃が左腕に振り下ろされる。
が…老人の皮表を覆う体液で刃先が滑らされる。
「ありゃあ…ダメだな…」
吹き抜けの3階部からコーラを飲みながら、その1階の様子を眺めている男が呟く。
(皮膚を覆う体液、硬質化した骨…一振りで断てるような腕前じゃなさそうだ…)
ヨレヨレの薄手のコートから手帳を取り出しペラペラとめくる。
「あんなのも出始めたのか…」
(個体差…ってことなんだろうな…)
使い古した手帳には『相良レポート』と書かれている。
(VAMPが来るまで…ここから出さねぇだけで精一杯だろうな…)
煙草に火をつけてドサッとベンチに座る。
ブレイズが2人倒れ、シールズが1名食われたころ、ヘリの音が聴こえた。
「やっと、お出ましか…
煙草の火をもみ消して男がニヤッと笑った。
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