第2話 2050年4月某日 その2

「行けるのか? コイツ…初陣なんだろ?」

「大丈夫だろ、その為だけに飼われてるんだ…それに変異体だって初陣って条件は一緒だ」

「そりゃそうだな…拘束具…外すぞ」


 手足の錠を外され、ゆっくりと立ち上がる小柄なシルエット。

 顔は仮面で隠され性別の区別はつかない。

「いいか42番、すでに2名が食われている、1人はシールズだそうだ…体表は粘液で覆われ、骨は硬質化しているそうだ、SMP前は足の不自由な老人だということだが、油断するなよ」

「………フォウツー…」

「なに?」

「私の名は…フォウツー…だ」

 か細く高い声…でボソリと呟く。

「あぁ!? 使い捨ての吸血鬼VAMPに名前なんざねぇんだよ‼」

 ガッ‼

 狭いヘリの中でVAMPが体躯のいい男の喉元を片手で掴み吊り上げる。

「使い捨ての吸血鬼は…人を殺しても罪には問われない…私たちが食うのは変異体だけではない…人だって食えるんだ…」

「があぁぁぁ…」

 ゴキン…

 そのまま小さな手を捻って男の首を折った。

「おい…」

 後ろにいた男がVAMPの肩に手を掛ける。

 それを無視して、VAMPは仮面を外して殺した男の首に噛みつき、そのまま肉を食いちぎった。

 クチャッ…クチャッ…

 ずれた仮面から、まだ幼い少女の顔が覗く。

 ガムを噛むように品なく口を動かしヘリの床にベッと吐き出した。

「クソッ‼ とっとと行けよ‼」

 追い出すようにVAMPを屋上に着陸させたヘリの出入り口を開ける。

 仮面を戻して少女が屋上へ降りる。

「ヘリは上空で待機しているからな」

 無言で頷き、屋上からショッピングモールへ入っていく少女。


「来たか…」

 火のついてない煙草を咥えたまま、視線を上方へ移すコートの男。

 吹き抜けから飛び降り、男の前をスッと落下していく黒衣の影。

「6階から飛び降りるかよ…さすが化け物…」


 ドンッ…

 低い音が響いて、少女が1階へ降り立つ。

「VAMP…やっと来やがった…」

 仮面の少女がゆっくり立ち上がり、腰の日本刀を抜く。

 ライダースーツのような黒いスーツ、顔を隠す黒い仮面、異様な空気を醸し出すVAMPと呼ばれる少女がシールズの壁を避けて変異体の前へ進む。

 目の前で食い散らかされたシールズの血だまりを歩き、その死体の一部でブーツに付いた血を拭うように踏みつける。

「やろう‼」

 隊員の一人が声を荒げる。

「よせ‼」

 それを制止する隊長。

「総員…下がれ…邪魔になる…」

 静かに命令を下す隊長。


「ククク…防衛省の精鋭揃いが、VAMP1人に…面子も何もねぇな」

 安いガスライターで煙草に火をつけ苦笑する3階の男。


「42番…か…また新人VAMPが投入されたか…」

(一体…どこから湧いて出るんだか…内閣府のカーテンの奥…の奥…)

「モヤシじゃあるまいし…日陰で生えるのかね~吸血鬼ってのは…」

(相良さん…アンタ、やっぱ消されたんじゃないの?)



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