第24話 使徒
「おーう、今戻ったぞー」
「良かった! 無事でしたかアレックスさん!」
「ご無事でなによりです、お坊ちゃま」
横穴へと戻って来たアレックスは、熱烈な歓迎で迎えられた。
「ん? そんなに時間経ってたか? 帰りは急いだつもりだったが」
「4時間は経ってますよ! ドールサイトの効果もとっくの昔に切れちゃってますし、どうしたものかと頭を抱えていたところです!」
「あー、わりーわりー。そーいや、そんなもんもあったな」
アレックスはそう言うと、持ちっぱなしだった人形をアリスに放り投げた。
「それで、何処まで行かれたのですか」
「ん? ああ、例のなんちゃらドラゴンと話して来た」
「えええーーー! なんで
「しゃーねぇだろ。合っちまったもんは」
「場所! 場所は分かりますね! 今すぐ引き返しましょう!」
アリスはそう言ってグイグイとアレックスに詰め寄った。
「あー無駄だ無駄。奴さんあのちょーしじゃ、だんまりを続けるだろうぜ」
「えええーーー、そんなーーー」
「それに、奴さんの近くはこことは比べ物にならないほど劣悪な環境だ、おめーには耐えられねぇよ」
「うーーーーー」
アリスは我慢ならないと言った感じで、ガシガシと服の袖を噛んだ。
「では、お坊ちゃま。ブルーアイズフロストドラゴンは何とおっしゃっていたのですか?」
「それが奴さん出し惜しみが好きでよ。自分は単なる傍観者にすぎねーって言って、ろくすっぽ会話になりゃしねぇ」
アレックスはそう言って肩をすくませた。
「傍観者……ですか」
「ああ、あの様子じゃ、神々の戦いって奴にも一家言ありそうだったが……」
「ありそうだったが?」
アレックスはグイグイ迫ってくるアリスを、うっとおしそうに払ってからしばし考え込んでこう言った。
「奴さん、そこで眠っちまったよ」
「ええーーーー! 嘘です嘘! 絶対何か隠してます!」
「かかか。言わずが花って奴だ」
アレックスはそう言って、大笑いした。
★
これ以上の登山は意味が無いということで、パーティは下山した。
そして、何食わぬ顔で麓の町に戻り、そこで宿を取った。
「で、実際のところどうなんですか?」
「あーもーしつけーなー」
アリスは、ベッドに入ったアレックスの枕元に立ち、恨めしそうにそう言った。
「そこまでにしておいてくださいアリス様」
「ええー! セシリアさんは気にならないんですかー!?」
「お坊ちゃまが言うべきでないと判断したのなら、私はその判断に従います」
「いやだから、奴さんとはそう大した会話をしたわけじゃねーってーの」
「うるさいのじゃ貴様ら! 眠れんではないか!」
ミコットの抗議の声に、アリスは不承不承ながら自分のベッドへと入って行った。
★
(戦いは終わらないねぇ)
アレックスはベッドの中で、使徒といわれるものの言葉を思い出していた。
(いや、終わらせてはならない、か……)
使徒の言葉が確かならば、今この現在も神々の戦いは続いているという事になる。
(俺にはかんけーねぇ……って訳にはいかねーんだろうな)
アレックスはそう思い自嘲気味に口の端を歪ませた。
使徒の姿を確認できたのは、アレックスを除けば例の古代竜だけ。
町に彼女が現れた時には、その場に一緒にいた筈のアリスはその姿を確認できていなかった。
アリスはその眼鏡によって、ある意味ではチートじみた視界を有していると言ってもいい。その彼女が確認できなかったという事は……。
(普通の人間には見えない存在ね。
まっ、いいや。暫くはほっといても大丈夫だろ)
アレックスは大あくびをして、眠りの世界へ入って行った。
★
どこまでも、どこまでも真っ直ぐな地平線が広がる純白の世界。
そこに、彫像のように美しい人たちがいた。
『あれが、今代の特異点か』
『だが早すぎる、イレギュラーと言わざるを得ない』
彼らは感情のこもっていない平坦な声で喋っていた。
『つり合いが取れていない、危険だ』
『だがその事は、特異点自身、自覚していると思われる』
彼らが見ている方向は点でバラバラで、会話をしているというよりは独り言を同じ場所で行っていると言った感じだった。
『ならば、様子見か』
『そう、無暗に干渉することは許されていない』
『全ては伝承の赴くまま』
『世界は円環を描いている』
プツンとスイッチが切れたように、世界は暗黒に包まれた。
★
「んあ?」
何か妙な夢を見た様な感覚がありつつも、アレックスはノックの音に目を覚ました。
「お坊ちゃま。朝食の準備が整いました」
「おーう、今行くわー」
アレックスたちパーティは、かさばる荷物を置きに、アリスの本拠地であるノレッジ教の教会まで一先ず戻ってきているのであった。
(夢ねぇ、夢、夢。まっどーでもいいだろ)
アレックスは寝癖だらけの頭をボリボリと掻きつつ、食堂へと足を運んだのだった。
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