第19話 新たな仲間

(神話の戦いねぇ)


 情報交換の御礼という事で、教会に止めてもらう事になったアレックスは、あてがわれた個室のベッドにごろりと横になりながらそんな事を考えていた。


(可能性とすればコールゴッド当りか?)


 コールゴッドとは最高位の神官が使える魔法である。その効力は神々の力の一部を引き出し、奇跡を起こすというものだ。


(しかしアレは、奴らの力の一部を借りるだけ。

 万が一その記憶を引き出せたとしても、数千数万年分の神視点の情報だ、とてもじゃねぇがちっぽけな人間にどうこう出来るものでもあるまいよ)


 アレックスはそこまで考えた時点で大あくびをした。


(まっ、俺にはどーでもいい話だ)


 そうして彼はごろりと寝返りを打った。


 ★


「う……うう……疲れたのじゃ」

「おー、どーしたミコット、随分と調子良さそうじゃねーか」

「どうしたもこうしたもないのじゃ! 貴様たち、わらわにあの迷惑シスターを押し付けて惰眠をむさぼってんじゃないのじゃ!」


 ミコットは目の下に隈を作りながら、大きな声でそう抗議した。


「かかか。しょーがねーだろ? 奴さんが魔族の宗教事情について興味津々だったんだからよ」


 アレックスはそう言ってけらけらと笑った。

 彼とセシリアが眠っている間、ミコットは一晩中アリスの質問攻撃にあっていたのである。


「うーん。中々に興味深い話が聞けました!」


 焦燥しきったミコットとは対照的に、アリスは危ない薬でも決めているかのように、目をキラキラとさせながら背伸びをした。


「うう、やっぱりこの人族は、何処かの牢獄にでも閉じ込めていた方が、世のため人のためでは無いのか?」


 ミコットはフラフラとした足取りで椅子にまでたどり着くと、倒れ込むように椅子に座った。


「おはようございます皆様、朝食の準備は出来ております」


 皆が席についた頃合いを見計らって、セシリアが朝食を運んできた。

 それはパンとスープ、それに牛乳といった簡単なものだったが、優しく穏やかな味わいで、昨晩タップリと頭を使いつかれた脳に、染み渡るような味だった。


「わっ、美味しい! セシリアさん後でレシピを教えてくださいますか?」

「ええ、私でよければ」


 元気いっぱいのアリスは、新たな知識を吸収できる喜びも込みで、笑顔いっぱいでおかわりを希望した。


 ★


「へー行く当てのない旅ですかー」


 朝食の際とりとめのない話をしている最中だった、アリスはそんな所に食いついて来た。


「だったらわたくしも付いて行っていいですか?」

「は?」


 アレックスは口をポカンと開けてそう言った。


「いやいやいやいや、ここはどーするんだよ? 教会を開けっ放しにしとくわけには行かねーだろ」

「あははははー。ここなら大丈夫ですよ。信者の方しか入れないようロックかけておきますから」

「え? そんなもんでオッケーなの?」

「ええ、そんなもんでオッケーです」


 アリスはそう言って堂々と胸を張る。

 しかし、一転して表情を曇らせこう言った。


「最近わたくしの研究も行き詰っておりましてね、ここはひとつ幸運の女神の加護にでも授かりたいと思っていたところなんですよ」

「幸運の女神ねぇ」


 アレックスはスプーンを口に咥えつつそう言った。


「ええ、それはもちろん比喩ですが、貴方たちから並ならぬ運命力を感じるのは事実です」

「運命力ぅう?」


 これまた胡散臭い単語が出て来たなと眉根を寄せるが、アリスは全く気にせずこう言った。


「ええ、勇者と魔王がワンセットで旅しているなんて、トラブルが飛び込んでこない訳ないでしょう?」

「あー、その眼鏡、アナライズ分析魔法がオートでかかるのか、とんでもねぇプライバシーの心外だな」


 アレックスはそう言って苦虫を噛み潰したような顔をする。

 断りもなくアナライズをかける様な真似、人によっては刃傷沙汰だ。


「えへへー、仲間が作った特別品なんですよー」


 だが、アリスはその困惑を誉められたと勘違いしたのか、照れくさそうにそう言った。

 アレックスは、いつか誰かに刺されるんじゃないだろうかこの娘? と思いながらも、他人には口外無用だと釘を刺した。


「えへへー、勿論ですよー。私たちの仲じゃないですかー」


 ところが彼女は、それを仲間と認められたと好意的に判断し、なれなれしくそう言ってきた。


「駄目だ、俺コイツと話通じている気がしねぇや」

「ちょっとちょっと、貴様が匙を投げるでないアレックス」

「いやコイツすげーんだもん、どんなこと言っても自分に都合よく解釈しちまうんだもん」


 アレックスはそう言ってギブアップとばかりに両手を上げた。


「え? それじゃー了承という事で構いませんね」


 アリスは満面の笑顔でそう言った。


 ★


 アリス・サピンティア/人族/21歳/女

 神官Lv29

 HP201/201

 MP254/254

 器用度48

 敏捷性47

 筋力 39

 生命力45

 知力 53

 精神力64


 スキル:神聖魔法Lv15、暗黒魔法Lv5、操霊魔法Lv7、召喚魔法Lv4、セージLv9、レンジャーLv5


 わたくしだけ一方的に知っているのは不公平ですので。と言う訳で彼女がオープンしたステータスはこの様なものだった。


「ほーん、なかなか優秀なんじゃないの?」

「いえいえ、セシリアさんに比べればお恥ずかしいものですよ。アレックスさんに至っては未知の領域ですし」


 彼女はそう言って照れくさそうに手を振った。


「まっ、セシリアは特別品だからな。修業時代のこいつは鬼気迫る迫力だったぜ」


 アレックスがそう言うと、彼女はほんのりと頬を赤らめうつむいた。


「うぐ……負けた、人族の神官職に暗黒魔法で……」


 別の意味でうつむくのはミコットだ、彼女は唯一のスキルである暗黒魔法についてもアリスに及ばなかったことにショックを受けていた。


「安心しろミコット、お前のステータスはあの時の3人娘にも劣っている」

「何処に安心する要素があるのじゃ何処に!」


 ポンと肩に手を置くアレックスに、ミコットはギャーギャーとかみついた。


「まぁ、わたくしもひとりでフィールドワークに向かう事が多いですし、必要に迫られてと言った感じですかねぇ」


 アリスはそう言って、過去の冒険を思い出すようにぼんやりと虚空を眺めた。


「いえ、それでもこれだけのスキルを保有するのは並大抵の事では無い筈です」

「あははははー。広く浅くって感じですけどねー」


 アリスはそう言って照れくさそうに手を振った。

 そして、キリリと表情を引き締めるとこう言った。


「基本的には皆さんの行動方針に従いますが、ひとつだけお願いがあるのです」

「ほーん、なんだ? 言ってみ?」

「ええ、わたくしには行ってみたい場所があるのです。

 伝承に謳われし地。光明神ライフォーンと暗黒神ガルダロスが相討ちとなったと言われる場所。ルドン高原の果てにある、ジュラーフェン大雪山です」


 アリスは神に祈るかのように両手を組んでこう言ったのだった。

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