#17

 6月28日日曜日、明才高等学校の文化祭当日。在校生、教職員、卒業生、他校生、保護者、来賓そして、軽音部の先輩方の前で天音舞は1でステージに立っていました。


***


「提案があるけど、聞く?」

 明才高等学校生徒会長である先本千景にそう尋ねられた舞と菱形林檎は突然のことに困惑しながらも首を縦に振りました。

「林檎にはU18と明才高等学校文化祭どちらにも出てもらおうと思う」

「待って。千景、U18の会場はここから飛行機でも1時間は掛かるし、決勝自体がいつ終わるのか分からないからそれは無理!」

 突拍子もない事を言いだした千景に林檎は強い口調でそう言いました。

「まぁまぁ、人の話は最後まで聞きなさいな。もちろん、舞から昨日話を聞いた時点でこことU18の決勝どちらとも出るのは難しいことは把握しているよ。でもそれはあくまで物理的な話でしょ?」

「物理的?」

 舞が首をかしげていると生徒会室の扉がノックされ、千景が返事をする前に女子生徒が中へ入って来ました。

「続きは明才高等学校報道部部長の青山天が説明しよう。先ほど職員会議に乱入して報道部として教職員にある要望をして来た。その要望というのが、3年2組出席番号29番軽音部副部長菱形林檎の『U18 ギタリスト決定戦 決勝戦』の報道部密着取材について。一部活動が学校行事を欠席して個人の取材を行うことに関して一部教職員から批判もあったけれど、そこは報道部の情報を生かして教職員全員の首を縦に振らせて来た。もちろん、その内容については企業秘密だ」

「天、あなたは記事だと要点がまとめられていてわかりやすいのに喋り出すとわかりにくいわね」

「天さん、報道部が林檎の密着取材を行うことと林檎がU18と文化祭のどちらにも出る話とはどのような関係が?」

「3年2組出席番号1番軽音部部長天音舞はどうやら報道部を甘く見ているようだ」

「そんなつもりは……」

 出来れば関わりたくない勢いの天に困惑する舞をよそに天は続けて言いました。

「報道部が菱形林檎の密着を出来るという事は報道部の機材を用いれば菱形林檎が文化祭に中継という形で参加することが可能という事!」

「我ながら無茶だとは思うけれどこれなら林檎も中継で文化祭に参加できるし、ライブにも参加できる。これは私が出来る精一杯の提案だけど、後は2人で決めて」

 舞と林檎はあまりに無茶苦茶すぎる提案に文字通り開いた口がふさがらなくなりながら互いの顔を見合わせました。

 そして、


***


「明才高等学校の文化祭盛り上がっているかぁぁぁ!」

 スポットライトが舞を照らし、たった一人しか居ないステージにざわつき始めた会場に舞の精一杯の大声がこだましました。

「軽音部は今、たった2人で活動しています。その1人は今、超、超、超大切なステージに立っています。はっきり言って相方が居ないのに1人でこのステージに立つのは怖かった。今年は諦めようと思っていた。でも、先輩と約束したから。私はここに立っています! 私はここで歌います。まずは一曲目! 盛り上がって行こう!」

 舞は相棒と共にたった1人で会場を盛り上げました。そこで歌ったのは舞が1人で歌うためだけに作詞作曲をした曲でした。

「次が、最後の曲です。その前に柿須先輩! 上杖先輩! 剣城先輩! 約束守れなくてごめんなさい! 今からその約束を果たします! 

「REMOTEで」

「「精一杯のありがとう」」

 どこからともなく林檎の声が聞こえ再び会場がざわつくと、ステージ上のスクリーンに遠く離れたU18の会場にいる林檎が映し出され、そのスクリーンを分割してステージ上にいる舞の姿も映し出されました。


 このステージを作るにおいて手助けをしてくれた人たちに対するありがとうが沢山詰め込まれた舞が作詞し林檎が作曲したこの曲は会場に居た全ての人たちを感動させ明才高等学校に今後語り継がれる伝説の文化祭ライブとなりました。



語り手 古本屋栞

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