#16

「はぁ」

 本日何度目になるのかもわからない大きな溜息を吐いた天音舞は軽音部に入ってからの相棒である赤色のギターをかき鳴らしました。

 今の気持ちを頭に思い浮かぶまま即興の歌にしていると、舞のスマートフォンが震えました。

「誰だろう?」

 SNSアプリを開いてみると、明才高等学校の生徒会長であり舞のクラスメイトである先本千景からメッセージが届いていました。

『文化祭のステージ使用依頼届けの件だけど軽音部は提出しないの?』

「悩み中」

 千景のメッセージに舞がそう返事を返すと一分としない速さで千景が返事を送り返してきました。

『先輩たちに進化した私たちを見せるって張り切っていなかった?』

「そうだけど、林檎が文化祭の日にU18の決勝戦行かなくちゃいけなくなって……」

 舞がそう返事をすると今度は一時間以上千景からの返信はありませんでした。

 翌朝、登校前にスマートフォンを確認するとようやく千景からの返事が来ていました。

『返事遅れてごめん。学校に着いたら林檎と一緒に生徒会室まで来て』

 千景のメッセージにはそれ以上の説明は無く、舞は千景の指示通りに登校途中に会った林檎と共に生徒会室へ向かいました。

「失礼します」

 一般生徒は滅多に足を踏み入れることのないある意味聖域とも言えるその部屋に足を踏み入れた2人はいつも以上にお行儀が良くなっていました。

「2人ともおはよう。朝から呼びだしてしまってごめんね。文化祭の事で少し話があって。とりあえず、そこのソファに座って」

 生徒会室とはいえとても生徒が使用する教室においてあるものとは思えないほど座り心地の良いソファに座った2人は教室で会う時とは違い生徒会長モードの千景を見つめました。

「まず聞きたいのは、2人とも用事の事は考えないものとして文化祭のステージでライブをしたい?」

「先輩たちとの約束だし、約束が無かったとしても私は林檎とライブがしたい!」

 舞は真っ直ぐ千景の目を見つめて即答しました。

「わたしも舞と同じ気持ちではいます……」

 舞に続いて林檎もそう答えましたが、声のボリュームは少しずつ小さくなっていきました。

「前々から舞が今度の文化祭に全力を出しているのは知っているから私個人としては舞と林檎には是非とも文化祭のステージでライブを行って欲しい。でも」

「でも、林檎はU18に行かないといけないから。私とのライブよりそっちを優先してほしいから」

「舞……」

 林檎とは目を合わせることなく舞は林檎の膝から下を見つめました。林檎はそんな舞の横顔を嬉しいとも悲しいとも取れる表情で見つめました。

「さて、そろそろかな」

 千景がそう呟くと見計らったかのように千景のスマートフォンが震え出しました。スマートフォンを確認した千景はにこやかな笑顔を浮かべて一言、

「提案があるけど、聞く?」

 2人にそう尋ねました。



語り手 古本屋栞

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