アマネマイ

#15

「舞、本っ当にゴメン!」

 突然の謝罪に何故謝られているのか思い当たる節が無かった天音舞は目を丸くしながら頭を下げている少女、菱形林檎を見つめていました。

「ちょっと、頭を上げてよ。いきなりどうしたの?」

「これ、なんだけどね……」

 林檎はそう言うと、自分のスマートフォンの画面を舞に見せました。

 そこには『U18 ギタリスト決定戦 決勝戦』の文字があり、その下にある出場者の欄に林檎がよく使っているハンドルネーム『アダムイブ』がありました。

「なんで謝るの? これって、林檎が昔から優勝するのを夢見ていた大会でしょ?」

「そう、だけど……。決勝戦の日程が」

「日程?」

 そう呟いて舞は再び林檎のスマートフォンを見つめました。

「6月28日? この日って確か」

「うん、文化祭の日。だから、ゴメン」

 林檎が必死になって謝罪をしていた理由に気が付いてしまった舞は視線を落としたままそれ以上何も言いませんでした。

 放課後、いつもと違い一人きりで下校した舞は自宅近くの公園に寄り道をしてブランコへ腰かけました。

「はぁ」

 舞の気持ちとは裏腹にカラッと晴れた青空を見つめながら舞はまだ記憶に新しい3月1日の事を思い返していました。


***


 3月1日、その日は舞の通う明才高等学校の卒業式が行われる日でした。

 例年通り、校長先生の定型文の詰め合わせのような長ったらしい話で予定時間を大幅に超え卒業式はあっけなく閉式しました。

「先輩方!」

 3年生の引退後、ギター経験者である林檎を差し置いて軽音部部長に就任した舞は軽音部の先輩3人を呼び止めました。

「ご卒業おめでとうございます」

 3年生が引退してたった二人になった軽音部の舞と林檎は今にも泣きだしてしまいそうな笑顔を3人の先輩に向けました。

「舞、林檎、軽音部の事は頼んだよ」

「林檎はU18の優勝目指して頑張って。応援している」

「舞、あんたは練習サボらずやりなさい。あんたもU18の優勝狙える実力があるって私たち3人とも知っているから」

 笑顔で先輩3人を送るつもりだった2人は先輩たちの言葉で涙腺を崩壊させられてしまい涙を止めることが出来なくなってしまいました。

「先輩! 私たち、2人きりになっても軽音部続けていきます。だから、だから。来年度の文化祭を見に来てください。今よりも進化した私たちをお見せします!」

「楽しみにしているよ。舞! 林檎!」

 軽音部だった5人は互いが互いを強く抱きしめ一つになりました。


***


「2人きりでも進化したのに。約束したのに……」

 舞は青空を見つめ、悔し涙を流しました。



語り手 古本屋栞

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