#14

 天文学レベルに運が良いことが自身も気付かぬ長所である普通の高校生のキバソラが住む地球に暮らす人類は突如として現れたイーヴィルを名乗る組織によって立体的な影のような姿に変えられてしまいました。

 運良く自身の記憶を残したまま影のような姿に変わったキバソラの前に五メートルもの大きさの西洋風の鎧武者が現れ……。

 では、物語の続きを語らせていただきましょう。



「運が良かったな」

 西洋風の鎧武者はキバソラに向かってただ一言そう言いました。

「運が良かった? そんな訳が無いだろう! こんな姿にされて」

 キバソラは声を荒げて悔し涙を流しながら、西洋風の鎧武者にそう言いました。

「そのうち慣れる。嫌でも」

 西洋風の鎧武者はキバソラを諭すようにそう言いました。

「我々の……いや、俺の目的は達成した。本当は別の地球でも同じ実験を行うつもりだったのだが運が良かった」

「運が良い訳無いだろ。お前のせいで俺は、俺たちは……」

「自分の星を勝手に侵略され、自分たちまで実験動物にされたら怒るのも当然だ。逆の立場だった時に俺も同じことを思っていた」

 その場に座り込みしみじみとそう語る西洋風の鎧武者をキバソラはジッと見つめました。

「もしかして、あんたは」

「お前の想像通り、俺は今のお前と同じようにイーヴィルによってシャドー化させられた元人間だ。闇に順応したせいでこんな巨体になってしまったが……」

「俺もいつかそんな風に」

「なるだろうな。聞いた話では、俺やお前の様に人間の記憶を維持したままシャドー化した奴らが闇に順応すると俺みたいな巨体の鎧武者に姿を変えシャドーイーヴィルと呼ばれるらしい」

 西洋風の鎧武者は聞いた話を得意げにキバソラへ話しました。

「俺も……」

「俺と同じなら一ヶ月もしないうちに闇に順応して俺のような姿になるだろうな」

「さっきから気になっていたが、どうしてそんなに嬉しそうにしているんだ?」

 キバソラは自分を異形の姿へ変貌させた西洋風の鎧武者を最初こそ敵視していたが、話している内に何故か親近感を感じてしまい、友達感覚でそんな質問を投げかけてしまいました。

「俺をシャドー化させた奴は俺がシャドーイーヴィルだと気付かず俺をイーヴィルに引き渡した。それからしばらくは言葉をしゃべることが出来ないただのシャドーと長い時間を過ごすことになった。それから何十年という時が経って俺はようやく単独で部隊を動かせるまでになった。でも俺の周りに居るのはただのシャドーだけだった。そんな時に俺の部隊にシャドー化実験を行う指令が下りこの地球にやって来た。そして、お前に出会った。ようやく同じ境遇の奴に遭えたんだ、嬉しくない訳が無いだろう?」

「そう、だったのか」

 キバソラはいつの間にか西洋風の鎧武者に感情移入をしていました。

「たった一人でも本当の仲間が出来た。お前がどう思っているかは別だが」

「人間を実験動物にするなんて指令を出すイーヴィルには心底腹が立つ……でも、俺はあんたの仲間にはなりたいそう思っている」

「流石、俺だな」

「えっ?」

 西洋風の鎧武者のその言葉にキバソラは素っ頓狂な声を返しました。

「まだ自己紹介をしていなかったな。俺の名前はソラ。人間の時の名前は木場ソラだ。よろしく」

「俺も木場ソラです」

 キバソラは驚きを隠せぬまま西洋風の鎧武者の差し出してきた大きな右手と自身の小さな右手で固い握手を交わしました。


***


 二人の木場ソラが出会ってから数ヶ月が経ち、イーヴィルの各部隊には風の噂程度にある部隊の話題が流れていました。

 それは西洋風の鎧武者と和風の鎧武者の二人のシャドーイーヴィルが指揮を執る『陰影かげ』という数十億のシャドーを率いる部隊でした。



 運良く出会った二人のキバソラの部隊はイーヴィルを語る上で切っても切り離せぬほどの存在へとなるのですが、それはまた別の機会にお話させていただくことに致しましょう。


語り手 古本屋栞

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