#9
『もしも』の世界に迷い込んでしまった彼、ヒカワヒナと彼女、ヒカワヒナ。
『もしも』の世界の悪戯によって互いの身体と精神が一日だけ入れ替わるという不思議な体験をした二人。
互いが不意に思い出した男の子と女の子。
その子は、彼に似ているようで。彼女に似ているようで。
その記憶が『もしも』の世界を出る鍵となるのか、ならないのか。
では続きを語る事に致しましょう。
家に帰るなり彼が自分の部屋で忙しなく何かを探しているのを横目で見ていた彼女は自分の部屋の扉に背中を預けて彼に似ているようで似ていないあの男の子に関する記憶を掘り起こしてみることにした。
三十分ほど考えてみた彼女だったが、その男の子に関する記憶は核心に触れようとすると何者かに封をされているかのようにぼんやりとし始めて思い出すことは出来なかった。
「あった!」
そうしている間に彼はようやく探し物を見つけたようで、彼女の世界……彼の世界であっても近所迷惑になりそうなほど大きな声でそう叫び、縦が五センチメートルほど、横が十センチメートルほどの画用紙で出来た紙切れを高々と掲げていた。
その光景を見た彼女はあのくらいのサイズの紙切れを持っていたことを思いだしたが、それが一体何であるのかは思い出せなかった。
「陽奈も部屋で探し物か?」
「まぁ、そんなところね」
「それなら片付けは頼む。俺はあっちの部屋で寝るから」
病人と言う立場を存分に利用して面倒くさい事を押し付けてきた彼だったが、彼女とは違って出し方が綺麗なおかげで散らかっているとは言い難く、彼女の探し物さえ見つかれば十分とかからないくらいで片づけることが出来そうだった。
ただ、この出ている物の中から見つけることが出来た場合の話であるが。
結論から言うと彼女の目的のものは五分とかからずに見つけることが出来た。彼が綺麗に散らかしてくれていたおかげで、彼女が散らかす必要は無く片付けも彼女の想定通り十分前後で終わらせることが出来た。
「切符、なのかな?」
片づけを済ませてポケットに仕舞っていた探し物をよく見てみると、ピンク色の画用紙に『きっぷ』と恐らく子供の頃の彼女自身の字で書かれていた。
しかし、『ぷ』という字の中央にある『う』の部分が鏡文字になっていて過去の彼女が犯した失敗を彼女は可愛らしく思いながらもほんの少しだけ恥じた。
裏面を見てみると印刷されたような文字で『往復券 残り1回』と印字されていた。彼女の記憶ではこんな手の込んだことをした覚えはなかった。
「一応、持っておこうかな」
この切符を『もしも』の世界で思い出した事と、彼や彼女が『もしも』の世界に来た時に乗っていたのが列車であった事はとても偶然とは思えなかった彼女はその『きっぷ』を『もしも』の世界に来た時に着ていた制服のポケットに仕舞ってから就寝した。
彼と彼女がそれぞれ手にした手作りの『きっぷ』が『もしも』の世界とどのような関係にあるのか……。
物語は終盤へと差し掛かっています。
さて、お伝えするまでもないとは思いますが、念のため。
この続きはまた近い将来語る事に致しましょう。
語り手 古本屋栞
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