#5

 『もしも』の世界による悪戯で邂逅した彼と彼女。

 『もしも』の世界による悪戯で身体と精神を入れ替えられてしまった彼と彼女。

 果たしてヒカワヒナの物語はどんな未来へと辿り着くのか。

 その続きをこれから語っていくとしよう。


「さっきまで寝ていたはずなのだけど」

 先ほどまで現在進行形で起こっている悪夢から目を背けるように、幼いころから愛用していたタオルケットに包まれて心地の良い夢の中にいた彼女は全く風を感じない不気味な街中に立ち尽くしていた。

「何でこんな所に」

 二言目を呟いたところで、彼女は自分自身の声が自分のものではなく、ある意味で自分自身のものであることに気が付いた。

 彼女の声にしては低い声であるが低すぎるという訳でもない最近聞いた事のある彼女にとって何故か懐かしくもあるその声はもう一人の彼女である彼の声であった。

「なるほどね、何となくだけど理解したわ」

 今の自分自身の姿を確認するまでもなく現在自分の身に起こっている彼女の精神が彼の身体と入れ替わり、彼の精神が彼女の身体と入れ替わったという本来起こるはずの無い現象が実際に起こってしまった不可思議すぎるこの状況について一切顔色を変えることなく理解した。

「なんて、流石に彼もわかるわよね」

 と呟いてみてから、彼の自分とは比較にならないほど低い思考力でその結論に至っているのかを冷静に考察して、彼の思考能力では彼女が導き出した結論に辿り着く前に思考が停止すると結論を出し、彼女は間違いなく混乱しているはずの彼と連絡を取るために彼のズボンの右ポケットに入っていたスマートフォンを取り出した。


語り手 古本屋栞

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