#2
ごく普通の会社員イチジョウマクラは多額の借金を背負いその短い生涯に幕を閉じた。
彼の短い生涯のエピローグは以前に語らせてもらった。ここからはイチジョウマクラの物語第二章を語っていこう。
……彼の第二章なら既に語っているはず? それはきっと『#0』の事だろう。あれはイチジョウマクラの物語において誤植であった。その為、本来物語に関わることのないわたしが処理を施した。
しかし、後になって考えてみればあれもイチジョウマクラの物語であり無かったことにしても無かった事にはならない事実であるため『#0』という形で本編とは別に残しておくことにしたという事である。
さて、余談はここまでにしてイチジョウマクラの物語を再び読み進めるとしよう。
彼は、イチジョウマクラは追っ手から逃げる中、自然の悪戯によって深く暗い谷底へ転落しその生涯に終わりを告げたはずだった。
「さあ、目を覚ましなさい」
マクラの耳には今まで一度だって聞いた事の無い言語が聞こえてきたが、マクラの脳が聞き覚えのある日本語へと変換したことでほんの僅かなラグこそあったがその言語を理解することが出来た。
「ココは?」
マクラが目を覚ますと自身の身体は光を吸い尽くすほど真っ黒な金属へと変化しており、そこに様々な色のコードが接続されていた。
「ここは私の研究室。そして君は私の発明品」
「違ウ、ワタシは……」
「人間だったらしいね。提供者から聞いているよ。家族と自分のために借金を抱え、やがてそれが自分のキャパシティを超えるほど膨大なものになった。そして最後はその借金を徴取しに来た借金取りに追われ崖から転落して生涯を終えた。そんなこと、私にとってはどうでも良いことだ。君にとっても。そうだろう?」
「そんなコトは……ハイ、もう関係の無いことデス」
マクラは研究者のその問いを否定しようとしたが研究者の瞳を見ているといつの間にかそう答えてしまっていた。
「理解が早くて助かるよ。こんな優秀な部下を提供してくれた彼女には感謝をしなくては」
研究者はマクラに接続されたコードを一本ずつ引き抜きながら気味の悪い笑みを浮かべていた。
「君にはこれから私の部下として私の野望のために働いてもらう。良いね?」
「かしこまりました。しかし、野望というのは?」
マクラは自身が知らぬうちに植え付けられていた研究者への忠誠心から即座に返答したが、イチジョウマクラとしての意思が研究者へ疑問への答えを求めた。
「私の野望は全世界を、全宇宙を、全次元を悪意で満たし私がその悪意を支配する。その第一歩として君を目覚めさせたという訳だ」
「それが、あなたの野望……」
「人間としての善意が私の忠実な部下である君を悩ませているようだ。なら」
研究者はマクラの肩に手を置くとマクラに小さな声で呟いた。その一言でマクラは人間としての善意の炎を自らの意思で消し去った。
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