第1244話 異変と大異変


「......」


 やりすぎ、どう考えてもやりすぎだった。


 始まりの街から王都まで、空中から眺める光景は正に地獄絵図だった。ただ、ただの地獄絵図なら今までも何度か見たことがある。ただ、今回のは規模があまりにも大きかった。


 地獄というのが東京ドーム何個分の広さなのかは知らないが、結構な広範囲を人の住めない地域にしたことは間違いないだろう。


『陛下、首尾の方はどうでしょうか? 無事、倒すことはできましたでしょうか?』


「え、倒す?」


『あれ、魔の手にかかった王都を救うべく、多くの高ランカープレイヤーたちが押し寄せている、との報告が上がっているのですが...』


 マジで? ってことは今向かってるってこと?


 でも、そんな軍勢どこにも見当たらないぞ? どういうことだ?


 地上に降り立ってみると、すぐに答えが分かった。王都全域が水没、いや氷没≪ひょうぼつ≫していた。上空からは分かりづらかったが、目に見えるもの全てが凍っている。恐らくこの中を探せば高ランカーとやらがいるのだろうな。


 ん、ってかアイスやばくね? 俺の配下になってからヤバいヤバいとは思っていたんだが、いよいよ手が付けられないレベルじゃないか? 幼いころから(今も幼いけど)周りに強いモンスターがいたから、自然とアイスの潜在能力が引き出されていったんだろうか。幼い頃の成長は大事って聞くしな。


 はやく会いに行って、あやしてあげよう。少しでも不機嫌にしちゃったら俺どころかこのフィールド全てを氷漬けにしてしまうかもしれない。


「アイスーどこにいるー?」


 王都が丸ごと凍っているからか、アイスの姿が見当たらない。もう飽きて帰っちゃったのだろうか。


 ワオーーーーン


 どこからか、犬の遠吠えが聞こえる。日も沈みだしてきた。早く見つけて帰らないと。一体どこに行ってしまったのだろうか?


 ん、犬の遠吠え?


 自分で言って違和感を感じた俺は、音が聞こえた方を向いた。そこには大きな王城がそびえたっており、その屋根の上に一匹の犬、いや狼が月に向かって吠えていた。


「え、アイス??」


 鑑定系のスキルを発動せずとも、そこには確かにアイスの存在が感じとれた。距離が離れていても分かる、あそこにいるのは間違いなくアイスだ。


 ただ、目に見える視覚情報がその確信を妨害してくるのだ。だって、可愛らしい子犬のシルエットではなく、明らかに狼の姿になっているのだから。


「あ、こっち向いた」


 アイスは、俺の姿を視認すると、ひとっ飛びでこちらにやってきた。


 わぁ~お、クソかっけー。銀色、水色、白色で構成された美しい毛並みにキリっとした目つき、これぞ正当進化だ、と言わんばかりの風貌だ。さながら天からの使いのようで、このままアイスの背中に乗って駆けだしたいくらいカッコいい。


 アイスの姿をよく見てみると、ステータスが表示された。


 <従魔:ゲルーゴンフェンリル、個体名:アイス>


 確かにアイスだったか、もはやアイスではなかった。げーるごん?というのは良くわからないが、フェンリルというのはよく聞く名前だ。確か、神話?にでてくるからきっと神様の使いなんだろう。


 こいつと共に俺は歩んでいくのか、と期待感と一抹の寂しさを感じた俺に対しアイスは、


「クゥーン」


 と甘えたように俺の体をこすりつけて、ポン! と元の姿に戻ってしまった。


「え???」

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