第1242話 ノンヴァーバル
第二の街、それは初心者帯を抜けたプレイヤーたちが集う場所であり、更なるゲームの沼へと誘う地でもある。
ゲーム開始時点ではレベルやスキルの関係上、どうしても取れる選択肢が少ないが、第二の街にくる頃には一度以上のジョブチェンを終え、様々な職業が見られるようになる。
始まりの街に比べると、生産職の数も一気に多くなる。
つまるところ、この第二の街はゲームに慣れ始めたプレイヤーが各々のプレイスタイルを確立していく街、とも言えるだろう。
そんな場所に二体、いや三体の魔物が降り立った。スカルとボーン、そしてゾムだ。
「......」
「グァ」
スカルとボーンは決してお喋りな魔物では無かったし(そもそもスカルとボーンは一心同体であるから会話を必要としていない)、ゾムに至ってはまともに会話することすら叶わない。雰囲気でこの子の気持ちが分かるのはご主人様くらいだ。
そんな彼らがポツンと街に放り出されれば、当然沈黙が生まれる。
果たしてどのようにこの街を阿鼻叫喚に陥れるのか、一抹の不安が生まれると思った矢先、沈黙を切り裂いたのはゾムだった。
「グァ」
当然言葉はないが、突如としてスカルとボーンに抱き着いたのだった。そして、体にまとわりつくように、骨格に肉付けをしていくようにゾムがスカルボーンと合体した。
スカルとボーンは一瞬困惑したものの、すぐにゾムの意図を理解した。もしかすると、非言語のコミュニケーションの方が二人には慣れていたのかもしれない。ゾムの思念を直接読み取ることができたのだ。
どこか遠くで爆発音が鳴った。恐らく他の従魔の仕業だろう、それに気が付いた彼らは動き始めた。
まず最初に、スカルがゾムの一部を空高くに投飛ばし、ボーンが掌底を食らわすことで、ゾムを爆散させた。
多分、ゾムに痛覚はないから大丈夫だろう。
そして、ゾム自身も身体を分裂させることで、とても細かくなり、まるで第二の街に一瞬だけ雨が降ったようになった。
さて、何故彼らはこのようなことをしたのだろうか、ゾムを宙に放り出し爆散させる。傍から見ればただの同士討ちだ。ただ、この流れの間に一つだけおかしな所は無かっただろうか?
・・・シンキングタイム終了。
正解は、ボーンがゾムを殴りつけたシーンだ。ゾムを空高くに位置しているのに、何故ボーンは殴ることができたのだろうか?
「転双」、という単語が出てきた読者は優秀だはなまるを差し上げよう。ただし、惜しい。それは、スカルとボーンのお互いの位置を目印として発動するものだ。片方が地上にいる状態でもう片方だけ天高くへ瞬間移動する、なんてことはできない。
ただ、それは二人のみの場合は、だ。
スカルとボーンにゾムという存在が侵≪はい≫ったことで、二人の領域が拡張されたのだ。つまるところ、お互いだけではなく、ゾムをキーに転双することができるようになったのだ。
だからこそ、天高く投げたゾムのもとへ一瞬で移動できたというわけだ。
さて、長々と解説を挟んでしまったわけだが、数刻前の状況をおぼえているだろうか? そう、ゾムの雨が第二の街に降り注いだところだ。
そして、地上には二人の戦士が解き放たれている。(当然、転双によってボーンは地上に戻ってきている)
ここから何が始まるかはお分かりだろう。
第二の街のほぼ何処へでも瞬間移動ができるようになったスカルとボーンによる暗殺大会の幕開けだ。人間の背後へ移動し、首を掻き切り(もしくはへし折り)再び飛ぶ。それの繰り返しだ。
最後に、「あれれー? ゾムの雨を降らせても屋内にいる人間の元には飛べなくないー?」
そう気づいたものには拍手を差し上げよう。
ただし、ゾムは個であり群でもある。たとえ粉々になったとしても、そこにゾムの破片があればそれはゾムであり自立して移動することが可能なのである。
つまり、第二の街にセーフティーゾーンは無い。
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