第1220話 トロッコ?


 哲学の世界、かー。一体どんな世界なんだろう? 先生がいて授業でも受けるのだろうか、あれ、それって倫理だっけ? 哲学ってそもそもなんだ?


 そんなことを考えていると、気づけば転移が終了していた。目の前には一つの椅子だけが存在していた。その他には何も無い、非常にシンプルな空間だ。ただ、どこからか明かりが灯っているのか、この空間全体が暖かな暖色に包まれていた。


 ん、俺はこの椅子に座ればいいのか? だってそれ以外することないもんな?


 でも、もしこれが罠で座った瞬間爆発したり、逆に椅子こそが本当の入り口で奈落の底に連れて行かれたり、しないよな?


 椅子の周りをグルグルと周りながら、そんなことを考えていた。


「はっ、もしかしてこうやって考えることそのものが哲学ってことか!?」


『違うわっ! さっさと座らんかこのド阿保!』


 突如、そんな声がどこからともなく聞こえてきた。多分、哲学の神様だろう。口調からなんだかお堅い感じがする。


 俺は言われるがまま椅子に座った。これが罠だったらド阿保って言ってきた奴こそ本当のアホだ。


『ふんっ、ようやく座りよったか。いつまで待たせるつもりじゃ。危うく時間を計るとこっろじゃったわ』


 なんか本当に先生みたいだな。このままだと色々と小言を言われそうだ。先生への特攻は一つしかない、質問だ。


「貴方がこの世界の神、哲学の神様ですか?」


『うむ、いかにもじゃ。儂がこの世界の神、哲学神じゃ』


 よしよし、先生は質問されれば絶対に答えないといけないという使命感、いや義務感を持っていることが多いからな。それを利用していかなる時も流れを変えることができる。そして、一度相手が答えたら後は質問コマンドを連打するだけだ。


「ではそんな哲学神に質問です。哲学とはどう言う意味ですか?」


『ふむ、良い質問じゃな。哲学とは、この世の真理を探究するものじゃ。言い換えれば、答のない問に対して向き合うもの、と言っても良いかもしれんのう』


 うん、全然意味わかんない。この爺さん何言ってるんだろう? 哲学って何ですかって聞いたのに更に訳が分からんくなってきたぞ。


「……ではここでは一体何をするんですか?」


『ここでは儂と一緒に哲学してもらう。哲学とは対話によって更なる境地へと歩みを進めることが可能じゃからな。儂を満足させられたらこの世界から出してやろうではないか』


「え、ってことは満足させられなかったら?」


『ふむ、満足するまで貴様には付き合ってもらうから、満足できないという状態にはなり得ないぞ? だから安心するのじゃ』


 うん、この人ナチュラルに狂ってますね。それがとんでもない自己中か。自分のことしか考えてない奴じゃん。それに哲学するってそんな言葉あるのか? ってか、何より面倒臭そー。


『ではまず初めに、簡単な問題からゆくぞ。線路を走っていたトロッコの制御が不能になった。このままでは前方で作業中だった5人が猛スピードのトロッコに避ける間もなく轢き殺されてしまう。この時たまたま貴様は線路の分岐器のすぐ側にいたのじゃ。貴様がトロッコの進路を切り替えればその5人は確実に助かる。じゃがその別路線でも1人が作業しており、5人の代わりに其奴がトロッコに轢かれて確実に死ぬ。さて、貴様ははどうする?」


 え、話が長いけどこれっていわゆるトロッコ問題だろ? しかも、現実世界じゃなくてこの世界の話だよな? だったら答えは一つだろ。


「え、俺が走っていってそのトロッコをぶち壊す、あるいは気合いで止める。かな?」


『…………』


 え、俺何か不味いこと言ったか?










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み、皆さんはどうしますか??

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