第1208話 貴方は電脳になることを望みますか?


 人間のデータ化ってある人たちからすれば悲願であろう。昔から電脳世界の物語は人気だったし、今でもそうだ。


 だがソレと同時に禁忌ともいえる。クローンにもつながるし、何より倫理的問題、技術的問題を人類は未だに超えられないからだ。だから俺からすればただのフィクションという域を出ないわけだが、それを俺は今体験することができるかもしれない。ま、それもフィクションだけど。


 ただ一つ言えるのはこの世界が、現実世界よりも高い技術を持っているということだ。


 蒸気の世界と謳われていたから、白い煙の蒸気機関車しか想像していなかったが、現実世界とは全く違う路線を走り、蒸気を使っているが故の技術の蛙飛びが発生したのだろうか?


 ただ、電気を知っている身から言わせてもらうとやはり、蒸気の世界が現実世界の技術力を超えられるとは思えないんだよなー。


「何を先ほどから真剣な面持ちで考えていらっしゃるのですか? もしかして自分自身がスキャンされるのが、コワイ、ハズカシイ、とお考えですか? 安心してください、貴方のプライバシーは私が責任を持って保証します」


「おい、その言い草だとお前に全てが掛かってるってことになるが?」


「まあ、そうとも言いますね。ですがあまりグズグズもしていられません。今こうしている間にも増援が送られ、その間に私たちを仕留める作戦が練られている筈ですから」


 ピュン


 ナップがそう言った側から、下の方から何かが飛んできた。恐らくレーザー光線か何かだろう。マジで時間ないじゃん。ってか元はと言えばナップがボコボコにされたからで……


「はい、じゃあ早速しちゃいますよー?」


「うわっ、ちょっ、待っ」


 ピカッ


 慌てる俺を他所にナップが眼球から眩い光を放った。それはカメラのフラッシュのようであったが、ソレと同時に、自分が頭の先から手足の先まで、それこそ毛細血管や細胞の隅々まで見られている感覚に陥った。まるで自分の表皮が透明にでもなったかのように。


 一瞬のようにも永遠のようにも思えたフラッシュが終わると、そこには……


「ん、ナップ? 終わり?」


 数瞬前と変わらず俺とナップが空中浮遊していた。ってっきりもっと大掛かりで自分の存在すら危険にさらされるような、そんなものだと思っていたんだが、


「はいできましたよ! スキャンをするだけなのであっという間でしたね!」


 お手軽〜。こんなにサクッとできるなら、全人類がやっちゃうんじゃないか?


「後はしっかり同期をしてっと」


「同期?」


「はい、意識の同期です。これをしないと別の自我をもっちゃいますからねー。自分自身と戦うなんて胸熱展開は別に今は求めてないですよね?」


「いや、これから先も求めるつもりはないが?」


「はい、できました! これで貴方は私の中にいるような感覚感じられるようになったと思います!」


 本当だ。何だかへんな気分だ。分身とは違う完全なる自分の複製がそこには存在し、もはや複製されているという実感すらない、ただの自分がそこにいる。


「ちょっと最初は違和感があるかもしれませんが直ぐになれると思いますよ?」


 直ぐに慣れる、というかもう既に完璧に肌に馴染んでいる。分身を以前から使っていたからだろうか、いや、あれは親と子が完全に分かれるから、どちらかと言えば分割思考に近いな。


 今では思考スピードが速くなっているから特に使ってはいなかったが、なんだか懐かしい感覚だ。だが、そこに肉体もあるのがおかしな感じだが、それが面白い。


 自分の存在が少し延長、いや拡張されたみたいだな。


 うん、存外悪くないな。久しぶりに暴れたくなるくらいには良い気分だ。










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いつも読んでくださっている皆様へ。

最近休み休みですが、少しずつ投稿できるようになってきました。そして、改めて皆様の存在が私の励みになることを感じています。ありがとうございますm(_ _)m


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これからも何卒よろしくお願いしますっ!!

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