第1160話 月廻


「ふぅー」


 術式の展開から今の今まで何気にずっと気を張っていたから流石に疲れたな。こればっかりは精神的な問題だからスキルじゃどうしようもない。でも、これでやっと一息がつける。


 ここは王都のお城の中で、目の前には俺の支配下にある王様たち。なんだか変な気分だな。


 自分以外の城にいること自体イレギュラーなのに、そこに持ち主までいるなんてな。


 感傷に浸る前にやるべきことをやっておこう。いくら支配下に置いたとは言ってもいつ、これを突破されるかも分からない。外の柱もいつまで保つかは分からないし、慎重になりすぎということはないだろう。


 先ずは先ほどプレイヤーが持っていたアイテムを検分してみる。それは三角柱の形をしており、キラキラとした光を放っている。見ていてとても綺麗だ。そして、何より力が漲ってくる感覚がある。さて、効果を見てみようか。


・月光プリズム

 月の光を吸収し屈折させるプリズム。非常に強い魔力が宿った月の光を分光させることで、所有者にMP補給し続け、また使用する光系スキルの威力が大幅にアップする。


 え、ちょっと待って。これって月光プリズムなの!?


 俺はその情報を求めてここまで来た、みたいな所があるのに、いきなりその目的のアイテムをゲットできるなんて……これはいよいよ俺に運のツキが廻って来たのかもしれない。


 月だけにな。


「異常気象発生、異常気象発生。急激な気温低下が観測されました。周囲にいる残存生命体は直ちに避難してください。繰り返します。異常気象発生、異常気象発生……」


 おい、そこまでじゃないだろ。大袈裟に反応しすぎだ。ってか、残存生命ってなんだ残存生命って。そんな言葉聞いたこともないし、今のって致命傷になるくらい寒かったのか?


「はい、強烈にサムかったです」


 うるせー。そんなことより、このプリズムはユグドラシルに向かうために必要なアイテムなんだよな?


「はい、その通りです」


 マジでそうなのかー。心の準備ができて無さすぎて、素直に喜べない。でもまあ一歩前進したのだから有り難く受け取っておこう。


 それに、このアイテムを持ってるってことは他のアイテムに関しても、持ってはいなくて何かしら情報を掴んでいる可能性は大だな。


 俺は王様の目の前までいき、一つ目の質問をした。


「なあ、神水って知ってるか? 神の水って書いて神水なんだけど。持ってたりしないよな?」


「申し訳ありませんが、私どもは持っておりません。ただし、伝承は大体伝え受けております。神水は海底神殿の最奥より湧き出てくる、と」


 ふーん、海底神殿、ね。って、前行ったことあるような気がするんだが?? まあまた行けばいいだけか。


「じゃあ無界樹の種については何か知ってるか?」


「……申し訳ありません。そのような名前を聞いたこともありません」


 そうか。名前すら知らないのか、それは難儀だなー。まあ、神水だけでも情報をゲットできただけよしとしよう。じゃあ早速海底神殿に向かいますか!


 俺がそう意気込んだ正にその瞬間だった。


 ッドーーーン!


 城の外から何かが崩れ落ちる音がした。……って、柱しかないか。


 恐る恐る振り向くと、そこには正気の戻った王様たちの姿あり、さらにその奥には正気に戻った王都の兵士たちがワラワラとにこちらにやってきていた。









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ギリギリセーフ。

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