第1147話 焦燥感
お久しぶりです。お待たせいたしました。
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アシュラは非常に焦っていた。
強さこそ正義の魔王軍において、成長がストップしどこか頭打ちになっている自分は無価値だと感じているのだ。
しかし、実のところアシュラの戦闘力は魔王軍でも群を抜いており、古参勢に相応しい実力を兼ね備えていた。
ただ、己を正当に評価することほど難しいことはなく、また、周りに自分より強い者や成長している者を目にしていると、自然と焦燥感にかられてしまうのであった。
そんなアシュラは今、王都で柱を守っていた。
この柱は、魔王が王都を完全に手中に入れるために必要なもので、魔王直々にこれを守るよう、命を授かっているのだ。
だが、魔王が守れと命じるほどのもの、プレイヤーから狙われないわけも無かった。
そもそも、今回の王都襲撃を受けてイベントの気配を感じ取った多くのプレイヤーが——そのほとんどが防衛戦か何かと勘違いしているのだが——王都に集結している。
そして王都に来たプレイヤーは即座にその柱のヤバさに気づいた。あれは壊さなければならない、あれは壊すべき代物なのだ、と。
自然、壊したいプレイヤーと守りたい魔物との衝突が生まれることとなる。
❇︎
「お、流石にタダで壊させてくれるわけじゃない様だな」
アシュラの目の前の男はそう言った。その口ぶりからしてまず間違いなくこの柱を壊そうとしている輩だろう。
だが、それにしてはどこか不気味なほどの余裕。まるで自分がやられることを考えてもいないような雰囲気を纏っている。
武器は……見当たらない。装備もほとんど私服じゃないか、というくらいの薄さだ。オーラと見た目のミスマッチからなのか、何故か心の靄が晴れない。今の内に倒してしまおうと刃を男に向けたその時だった。
グチャリ
背後から何者かに噛み付かれた。
咄嗟に振り返るとそこには、人間とも魔物とも言えないような奇妙な生命体、いや生きているのかも定かではない存在がいた。
そしてその反応はいくつもあった。
アシュラを攻撃するもの、柱を攻撃するもの、そして術者を守るもの。
コイツらは殴っても切っても、無限に湧き出てくる。柱も守らなければならないアシュラにとっては腕が六本あることだけが唯一の救いだった。
対応に追われている中、ふと奥に守られている男と目が合った。
そうか、コイツの余裕はここから来ていたのか。自分が直接手を下さないからこそ、自分は安全だという確信。
絶対に倒してやる、そんな気持ちとは裏腹に迫り来る敵たちは増え続け、当然アシュラと言えど取りこぼしが発生した。
敵を倒す、男を倒す、柱を守る。腕は三対あれど、頭は一つしかなかった。
一つの取りこぼしが焦りを呼び、その焦りが身体の操作精度の悪化を招く。
あぁ、自分は弱い。自分は無力だ。と、思わずにはいられなかった。
また一体、また一体と自分に噛みつかれる。それでも倒そうと足掻けば足掻くほどどんどん泥沼に嵌っていく。
もう諦めかけたその時、体のどこかで異変が発生した。
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次回もアシュラ回です。
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