第1125話 一殺
「ユグドラシル、ですか?」
勇気を振り絞って司書さんに尋ねると、かなり戸惑ったような声でそう言われてしまった。あれ、この世界にユグドラシルが無い訳、ないよな?
「もしかしてユグドラシルって存在しないんですか?」
「あ、はぁ……存在するかどうかと言われましても、ユグドラシルは架空の植物ですよね? それこそ、御伽話に出てくるような類の」
「え、そうなんですか?」
「はい。ですので、文献はおろか本一冊もないですよ?」
「え、一冊も……?? そ、その御伽話というのも無いんですか??」
「そうですねー、御伽噺というのは基本的に口伝で、あまり書物として残っていないんですよね。あ、でも子供向けの説話集になら載っているかもしれません。探して来ますので少々お待ちください」
そう言って司書さんはどこかへ行ってしまった。なんか無愛想かと思ったけど意外と丁寧に対応してくれ、あ、帰ってきた。……早くね!? この図書館の広さ知ってる? 時速何キロ出てたんだ? それなのに汗どころか、息一つ切れてない。
司書さん、恐るべし。
「すみません。こちらの一点しか所蔵しておりませんでした。ご返却の際は私に声をかけていただくか、返却ボックスへお入れください。では、」
「あ、ありがとうございます」
やはり餅は餅屋だな。いっつも声を掛けるのを躊躇ってしまうが、結果声をかけると大概のことは上手くいく。それはこちらの世界でも同じだったんだな。
そして遂に、ユグドラシルへの手がかりを一つ入手することができたぞ! ここまで長い道のりだった。例え子供向けの御伽噺としても必ず何かは掴めるはずだ。
俺は席に着き、呼吸を整え、本を開いた。
その本はかなり分厚く、様々な物語が収録されていたのだが、目次から世界樹という単語を見つけたので、そのページを開いてみる。するとそこには、世界樹の存在を知った一人の少年の冒険譚が描かれていた。
その少年は冒険の途中様々な困難を乗り越えたが、それでも世界樹を見つけることは叶わなかった。
すっかり大人になってしまった少年が、丘の上で一人横になり、夜空を見上げた。煌めく星々に向かって少年は世界樹はどこにあるの、誰にも聞こえない声でつぶやいた。すると、
『神に至りし者だけが、世界樹に辿り着かん』
という声が、どこからともなく聞こえた。当然、周りには誰もおらず、少年は星からの啓示だと確信していた。考える間も無く少年は口から疑問符を発していた。
「ど、どうやったら神になれる!?」
『我と共に歩め。さらば、全てを照らさん』
そこから、その少年を見たものは誰もいなくなったという。少年は一体どこに消えたのだろう。
という物語であった。
え、つまるところ神になれと? ……そういえば俺も神になろうと思ってた時期があったな。
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1000円を使えと言われたら皆さんは何をしますか?
私は小説を買うか甘いものを買うか、その両方ですね!!
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