第1121話 幻の獣


 明らかに何者かによって手が加えられた掲示板を見た後、振り返るとカウンターに戻った受付がニヤリと笑った。クソ、模擬戦に勝ったからと完全に油断してしまっていたぜ。


 まあ、腹を括ってこの中から選ぶとしたら、見つけるのが大変そうな幻獣系よりも見つけやすそうで倒すだけで良い、怪獣の方が簡単そうだな。えーっと、依頼内容は……


「ガルグイユ?」


 初めて聞く名前だな。他にもラドンだのユランだの知らない名前がたくさん列挙されていた。まあ、最初に目についたガルグイユを受けるか。ちゃっちゃっと終わらせてさっさと次に行こう。そこそも俺は図書館に行こうとしてたのに。


「あ、ちょっと待ってくれ。今他の支部から連絡が入った。どうやら今、お前さんが受けようとしていた依頼が受注されてしまったらしい。その他の依頼も。というわけで、コイツらはダメだな」


 そう言ってまたもやいつの間にか隣に来ていた受付が今まさに俺が取ろうとしていた依頼たちを引き剥がして言った。おいおい、まじかよそんなことあるのかよ……


 もしかしたら暗殺ギルドに加入している他のプレイヤーが他の街で依頼を受注したのかもしれないな。それはまあ、仕方のないことだから許してあげよう。


 ただ、残ったのは、綺麗に幻獣系だけだった。


 クソ、もうちょっと早く決断していれば! ん、いや待てよ? 他の支部から受けた依頼が消えたってことは、暗殺ギルドの依頼はある程度共有されているってことだよな? じゃあ始まりの街にでも言って依頼をこなしてくれば余裕で更新できるじゃねーか!


 俺は天才なのかもしれない。


 そう思い、意気揚々とギルドを後にしようとした所、後ろからまたもや声を掛けられた。


「あ、そうそう言うのを忘れていたが、Sランクの更新はここ王都でしか受け付けてないからな。簡単な依頼で更新しようったってそうはいかないぜ?」


 くっ、完全に読まれてしまっっていた。恥ずかしい。


 でもまあ確かにそうか、Sランクがスライムを倒して更新できるわけもないか。


 ただ、俺の思考回路を読まれて先読みで封じられたのが悔しい。絶対に俺に負けたこと根に持ってるだろ。本当は、他の支部でも更新できて、怪物の依頼も全然受注されていない、なんてことないか??


 ……うん。もういい加減腹を括ろう。幻獣だのなんだの言っても、最終的には見つけて倒すか捕まえればいいんだ。そんな難しいことじゃないだろ。


 それに幻獣っていうくらいなら、俺の目当てでもあるユグドラシルに何か関係があるかもしれないしな。


「えーっと、じゃあこの依頼で頼む」


「おう、分かった。んーっと、スチュパリデスの討伐だな。討伐証明部位の嘴を忘れず取ってくるんだぞー」


 ん、でもなんだかんだ実際に依頼を受けてみると、ワクワクしてきたな。探して見つけて倒す。シンプルが故に抗いようのない原初の楽しみが詰まっている気がする。


 それになんだか懐かしいな。久しくこういうことをしていないことを考えると、もう少し依頼を受けてあげてもいいかもしれないな。


 そう言いながら俺はギルドを出て、ハーゲンに乗った。


 あれ、それで俺が今から倒すモンスターはどんな奴だったっけ?


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