第1120話 ガイスマ
「おーい、おーい!」
「はっ! こ、ここは……?」
いやいや、場所が分からなくなるのは違うだろ。いや、確かに壁にめり込みすぎてて、自分でこんな場所に移動した記憶がなければそうなるのか? でもそんなことよりも。
「模擬戦終わったんだから更新していただけますよね??」
「ん、何を言っているんだ? 終わったどころか始まってもいな……」
受付マッチョがそこで言葉を区切ると、急に押し黙り、そしてこちらを見た。そしてキョロキョロと周囲の状況を確認し——当然壁の中だから何も無いが——、もう一度俺の方を見た。
「もしかして、私、負けたのか?」
「……はい。もう一回やりますか?」
「い、いや大丈夫だ。認めよう」
もしかして認められないのかとも思ったが、流石に分別のあるマッチョだったようで、すんなり認めてくれた。直接やられた記憶は無くても、体が覚えていたのかもしれないな。
だって、二回死ぬって経験だけでも普通の人では味わえないものだもんな。
❇︎
その後、つつがなく手続きをしてくれ、無事、ギルカを更新することができた。いやー良かった良かった。マッチョだけでしっかり事務作業ができるのは何故か面白いな。
「うい、これが新しいギルドカードだな。お前さん、Sランクだったんだな。そりゃ何をされたかも分からないまま倒されるわけだな。最初あれだけ粋がっていたのが恥ずかしいぜ」
そう言って俺はギルドカードを手渡された。自分の恥ずかしさを認められる大人は十分に強いと思うぞ。ってか、俺ってSランクだったんだな。本当にギルドから離れすぎて何もかも忘れちゃってるなー。ま、更新できたからいいんだけどね。
「じゃあ、ありがとうございました!」
「ん、ちょっと待った」
「え?」
気づけば先ほどまでカウンターにいたはずのマッチョが、俺と出口の間に立ち塞がっていた。あれ? 何が起きた?
「このまま帰ったらまた依頼こなすの忘れて失効しちまうだろうがよ。だから、今依頼を受注してもらわねーといけねーんだわ。じゃねーと俺がまたボコボコにされちまうだろう?」
「……」
ナイスガイがナイススマイルで何を言ってるんだ。
あーでも確かにそうか。依頼をこなさなきゃどうせ失効してしまうんだもんな。正直、失効してからまたここにくればいいやと思っている自分もいるんだが、目の前の巨漢を見てると、そういう訳にもいかなさそうだ。
「分かりました。受けますよ」
「あぁ、分かってくれるって信じてたぜ」
そう言って掲示板の方へ向かうと、そこには依頼のほとんどが引っぺがされた後があり、残っているのは怪物や幻獣などの討伐といった、いかにも面倒で大変そうな依頼しか残っていなかった。
おいおい、勘弁してくれよぉ〜。
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