第1116話 眼鏡の独白
僕は非常に空っぽな人間なんだと思う。
好きな物は何か、と聞かれると返答に窮するし、今まで好きになってみたものも、元を辿れば必ず誰かが好きだったものに便乗していることが多い。
他人の所為にするわけではないが、幼い頃から周囲に正解を決められ、我を出すことが封じられたため、結果として求められるパフォーマンスをする人間へと成長していった。
「擬態」と言う言葉は非常に僕に似合う。
意識が高い人たちに混ざれば自然と意識は高くなるし、オタクの中に混ざれば自然とオタクのような思考回路や口ぶりになる。その場に適応、順応し違和感を消すという作業はとても得意だった。なんせ、その場に応じた正解を見つけ出すだけでいいのだから。
だからこそ親の言うことは聞く良い子だったし、先生の言うことを聞く良い生徒だったし、勉強も熱心にした。だって、それが僕に求められている正解だからだ。
そしてそれは奇跡的に僕の才能とマッチした。いや、マッチしてしまった。
勉強は得意だったし、やればやるほど成績も伸びたからだ。努力をしていないわけではないが、才能がないとも言えない、そのくらいには勉強ができる子だったと思う。
そうやって僕は勉強に勤しみ、その地区一番の進学校に進むことができた。勿論、これも周囲からすれば正解の行動で、誰からも咎めることができないものだった。
しかし、その学校に進学すると、勉強をするのが正解ではなく、当たり前になってしまった。
そして、今まで正解を求め続けていた僕にエラーが生じた。
そもそもの話、僕は別に勉強が好きではない。ただ、正解だから、求められているから行っていただけなのだ。そんな、好きじゃないことをし続けるのは根本無理があった。
気づけば勉強への意欲は消え去り、高校でできた友達が行っているゲームへと興味が湧いた。
この時の僕の心境は今でも分からない。
友達とのコミュニケーションの為にゲームへ興味を持ったのか、それとも今まであまりやって来なかったゲーム自体に興味を持ったのかは定かではない。
ただ、一つ確かなのは、僕がその当時高価だったゲーム機を購入しゲームを始めたと言うことだけだった。
最初は友達と楽しく遊んでいたものの、友達は勉強にリソースを割かなければならなくなり、僕だけがこのゲームを続けることになっていた。
その頃には最初の曖昧さなんて忘れるくらいにはハマっていた。
ただ、友達という指針を無くした今、どうプレイすれば良いのか迷っていたため思い切ってロールプレイを試みたのだ。
ロールプレイは分かりやすい。既に正解が用意されているのだから。僕は現実でも度々キャラを設定して振る舞うことがある。そちらの方が僕自身人と接しやすいし、一貫性を保てるからだ。
そんな訳で僕は情報屋クランに参加し、見事、情報者へと転身した。
ただ、ここで二度目のエラーが起きた。それは人間関係だ。
今まで周りの期待や正解に応えてきたのは、それをするに足りていると、僕自身が無意識かに判断したからであって、どこの馬の骨とも分からないような奴の期待には応えたくはない、という自我が発生したのだ。
この理由は今でも謎だが、恐らく空っぽなりにも十数年生きてきた中で価値観が形成されてきたのだと思う。
段々とクランのメンバーとソリが合わなくなってきて、もう辞めてしまおうか、と思ったそんな時だった。僕は一人のプレイヤーを目にすることとなる。
そのプレイヤーはとにかく自由で、強くて、何より自分に真っ直ぐ芯がある僕と真逆の人間だと感じた。(その当時の僕は今に輪をかけて戦闘センスが無く、レベルも低かった)
そして、僕は思ったのだ。この人の話を聞いてみたい、と。自分にないものを全て持っていそうなあの人はどんなことを感じ、考え、行動しているのだろうか、と。僕の全身の興味が一点に集中した。
そこから、僕の「正解」が確定した。それは今思うと、初めて自発的に設定されたモノだったように思う。
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ずっと書きたかったメガネくんのエピソードゼロ。(カッコつけんな)
多分、矛盾点が無いようになっていると思うのですが……
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