第1105話 減譜身(別視点)


 ふぅ、とうとうこの日がやってきたようだ。私はこの日をどれだけ待ち望んできたことか。遂に、宿願の魔王討伐が果たされる時がやってきたのだ。


「おい、嫉妬。首尾はどうだ?」


「ん、あぁ強欲か。お前が案ずることは何一つない。最高の状態だ」


 だからこそ私はいつになく気分がいいのだ。


 それに、前回、良い技を手に入れることができたのだ。まさか、魔王があんな技を隠し持っていたとはな。驚きと喜びが入り混じって思わず叫びそうになってしまった。


 だが、その技ももう既に私の中だ。笑みを溢すなという方が無理なものだ。


 私が所有する七大罪スキルの一つである嫉妬は、敵の技をコピーする。技のコピーというだけでは嫉妬以外にもいくつもそのようなスキルがあるが、そういった紛い物はあくまで劣化版のコピーしかできない。


 だが、私の本物は何を隠そう、完全再現してしまうのだ。


 だからこそ、我々は敢えて敗北を繰り返し、敵の技を見せてもらっていたのだ。勿論、魔王以外にも多くの技を頂いている。


 それに加え、こちらには強欲がいる。強欲は直接的な攻撃スキルではないものの、非常に私と相性が良いスキルだ。なんせ、スキルやアイテムを一度限りではあるものの顕現させることができるのだ。


 しかも、それを一日一回という短いクールタイムで使える。


 そう、あまりにも私の嫉妬と相性が良すぎるのだ。


 全てを手に入れられる強欲と全てを模倣できる嫉妬、私たちに敗北の二文字はない。


「さぁ、いくぞ」


 我らは進軍を開始した。


 今までの侵攻により、もう既に魔王国は瓦解しており、残すは魔王城ただ一つとなっていた。魔王達による激しい反撃もあったが、侵攻の度に強くなる私たちを止めることは如何に魔王であっても不可能なようだっだ。


 そして、今日それに終止符が打たれる。


 あっという間に魔王城を取り囲み、魔法による砲撃を開始する。ここまでがいつもの流れだ。そしてそれに対して反撃があるのだが、今回はそれを待たずに仕掛けようと思う。


 私と強欲による単騎奇襲戦法だ。


「では強欲アレを頼む」


「あぁ、【トランスペアレント】」


 二人が透明になったことを確認し、私たちは魔王城を外壁から登り始めた。とは言っても二人のスキルを使えば頂上まで辿り着くのに五分と掛からなかった。


 手頃な窓を見つけ中の様子を窺うとそこには魔王が指揮を取っていた。今から殺されるとも知らずに。


 反対側に回った強欲に合図を出し窓を破らせ、その隙に私は窓をすり抜けた。


 そう、このスキルは透明になるだけでなくすることもできるのだ。


 そして音もなく魔王の背後に忍び寄り、その首を掻っ切った。


 これで私たちの勝利だ。


 案外呆気ない終幕であったな。

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