第1104話 久々の苦戦
ハーゲンの苦戦、それは俺の中でかなりの衝撃を帯びたことであった。
何しろ、ハーゲンは俺と一番古い付き合いで、その名の通り従魔の中で最強のイメージがあったからだ。
そんなハーゲンがまさか苦戦するとは……という感じだ。
そりゃ勿論、今まで苦戦したことくらいはあるだろうが、その感覚は久しくない。ってが、そもそも負ける気すらしてなかった。
だが、今回は違う。辛勝の苦戦ではなく、敗北前の苦戦の香りがするのだ。ここまで鵺に対して苦しそうにするとは思わなかった。
まあ、鵺が強いという問題も当然あるだろう。猿、狸、虎、蛇のキメラなんて異質にも程がある。戦い難いのも無理はない。
やはり、一度死んだのが大きかったのだろう。ハーゲンは自力で強くなりたいといったが、それに比べて周りは俺のドーピングでガンガン強くなっているから、気付かぬうちに大きな差ができてしまったのだろう。
皆がガンガン種族進化してる中、ハーゲン一人捕まえた時のまんまだもんな。クソ、もうちょっと早く気づいてあげられれば、正統な進化なり、強制進化なり色々手立てはあったのに。
そんな面持ちで試合を見ているといよいよどうしようもなくなったハーゲンがやられそうになっていた。
個人的な気持ちとしては今すぐ試合を中断して、強制進化させてやりたいんだが、そんなことをしては周りから反感を買うのは目に見えているし、ハーゲンに取っても良くないのだろう。
苦戦することによって更に強くなれるのだから。
ん、でももう苦戦したから良くね? ダメなのか?
その時だった。
ドーーーーーーン!
遠くで、いや案外近くで爆発音が聞こえてきた。不味い、もうプレイヤー達が攻めてきたの?
試合中の二人を含め、その場にいた全員が固まった。
そんな静寂を蹴破るようにバン! と、扉が開かれ、一人の司祭の格好をしたプレイヤーが現れた。
「うぇっ!? あ、あの、へ、陛下……人間共が攻めてまいりました。い、如何致しましょう?」
そういえばこんな奴もいたな。すっかり忘れてたぜ。ってか、コイツもちゃんと強化してやらないとな。魔王国側のプレイヤーを任せているとは言え、スパイも大勢紛れ込んでいることだろう。そうなれば頼れるのは己が身だけだ。
ただ、試合を中断する都合の良い理由ができた。まさか、プレイヤー達に感謝する日が来るとは思ってもみなかったな。
「お前達、どうやら我に喧嘩を売る不届き者が現れたようだ」
皆からの視線が集まる中、俺はゆったりと口を開いた。妖たちや司祭のプレイヤーもいることだし、俺は久々に全力の魔王を演じることにした。
「我が軍の恐ろしさを教えてやらねばならん。死を恐れるな。全て我が引き受けよう。貴様らは勝利のみを渇望せよ、」
俺は一呼吸置いて、声を張らずに、それでも響き渡る声で言った。
「全軍、突撃」
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