第1099話 灰土


 妖刀・祢々切丸ねねきりまるに斬られるも体を蝙蝠に分解し、再構築するという術を持ってして敵の攻撃を防いでいたカイトだったが、それは一方的でカイトには反撃の機会がないように思えた。


 そんな中、変化は突然訪れた。


 もう何度目かも分からない祢々切丸の斬撃をカイトが体で受けた時のことだった。なんと、妖刀ともあろうその刀に刃こぼれが生じたのだ。


「っ……!?」


 そのあり得ない事態に対して狼狽えた祢々切丸に対して、カイトはどこからとも無く取り出した、剣の様な槍の様な剣でもって一刀両断にした。


 祢々切丸の刀身が破壊されるとそれを持っていた人間の形をした何かの姿も消え、カランと音を立てて地面に落ちた。


 これはカイトの勝ちだな。それにしてもまさかこんな手を隠していたとはな。


 祢々切丸の刃こぼれが起きたのは、おそらくカイトが斬られている内になんらかの状態異常、多分腐敗系統をかけていたのだろうな。


 そしてあの武器はなんなのだろうか。レイピアをもっと太くしたもの、というだけでは説明が付かない、螺旋状になった先の方が尖った剣、とでも言えばいいだろうか。ともかくかっこいい剣だ。


 それも以前までは持っていなかった筈だ。吸血鬼の長となったことで経験だけでは無く、自分だけの武器も色々手に入れているようだ。師匠としては嬉しい限りだな。


「あ、」


 ちょっと待て、祢々切丸ってただ単に回復させるだけでいいのか? ポッキリ刀身が折れてるんだぜ? 人間で言えば胴体を真っ二つにされている状態だ。


 プレイヤーだって欠損すればそれ用の回復方法が必須、だったはずだ。物質の、しかも妖刀の回復方法なんてしらないぞ? 鍛冶屋にでも持っていけばいいのか?


 俺がどうしようかテンパっていると、メガネくんの声が聞こえてきた。


「陛下! どうやら妖刀は生物の生き血を吸うことで回復できるようです! ですので、血を与えて下さい!」


 お、有能。流石はメガネくんだ。流石にNPC、しかも味方の、しかも強い妖刀の祢々切丸をみすみす死なせてしまうのは本当に嫌だったから助かった。


 よしじゃあ早速ワイの血で。


 グサッ


「あれ? 回復しないぞ?」


「え、え? な、な、な、なんででしょう? 妖刀は基本的に血を吸わせるのが一般的なはず。もしかして陛下の血だからでしょうか? いや、そんなことはないはず。陛下の血はそんじょそこらの血なんかよりもよっぽど高貴で強力なはず……」


 まさかの事態にはメガネくんも驚いているようだった。そこから頭をフル回転させてくれているのだが、内容がちょっと狂信的だな。


 ん、俺の血?


「って、俺血液不要じゃん!」


 俺、血要らねー体だったんだ。日頃、自分に流れる血液に意識を向けることなんかないから完全に抜け落ちてた。ってか現実世界でも怪我しない限り意識しないよな。


 や、やべーどうしよう。自分の血だったらいくらでも渡せるんだが、他人に対して血を差し出せというのはちょっと違う気がする。いくら俺が皆よりも偉い立場だとしてもそれはどうなんだ?


 ここまでをスキルを使って一瞬で考え、仕方なく、事情を分かってくれそうなメガネくんに頼もうとしたところ、


「師匠、私の血をお使いください。私は日頃から生き血を啜っておりますため、潤沢にございます」


 と、カイト自ら申し出てくれた。これは助かる。確かに刀身を破壊したのもカイト自身だし、しかも吸血鬼ということもあって一番丸く収まるな。


 ……ってか、お前雰囲気変わった??

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