第1097話 全員対坊主


 ゼイン対海坊主、この組み合わせは属性的にあえて不利になるようにした。


 それは俺が組み合わせを決めている以上、妖たちに従魔が有利になるようにしているって思われたくないからだ。


 妖たちとはまだ共に過ごした時間が短いし、さらに数も多い。彼らから信頼を勝ち取る為には、並大抵の努力ではダメなのだろう。


 皆全てに平等の愛を注ぐことは難しいかもしれないが、それでも平等な愛を注ごうとはしたい。現実世界でも複数人子供がいる親御さんはもしかしたらこういう気持ちなのかもしれないな。


 ま、俺一人っ子だから兄弟がいる親の気持ちどころか、兄弟を持つ子供サイドの気持ちも分からないんだけどな。


 ゼイン対海坊主の試合はなかなかに大味な試合となった。


 飛ぶことができるゼインに対して、機動力は劣るものの圧倒的な体躯で持って迎え撃つ海坊主は非常に見応えがあった。


 炎による攻撃は基本的に海坊主の水によって防がれ、かといって海坊主の攻撃はゼインの機動力の前にはなす術がなかった。両者の大規模な攻撃は互いに致命傷を与えることなく、会場だけを派手に壊していたのだが、遂に終止符が打たれた。


 それは、ゼインの自爆攻撃とも言えるほど、自身の体を熱く燃やし、いや焦がしながらの特攻だった。


 燃え盛る体のまま海坊主にそのまま突っ込み、海坊主の体内でさらに燃焼し続けたのだ。海坊主の水が勝つのか、はたまたゼインの炎が勝つのか、文字通り両者の命を削る戦いの末、海坊主の水分をほとんど蒸発させたゼインが辛勝した。


 ただ、この結果だけを見てゼインの方が強いと論じるのは早計だろう。


 ぱっと見平等な条件の下の試合に見えるが、炎と水という属性上、このフィールドは明らかにゼイン有利だ。なんせ、炎に必要な要素である酸素が豊潤に用意されているのだからな。


 つまり、このフィールドが水上、いや水中であれば容易に試合結果はひっくりかえるだろう。そのくらいの接戦だったように思える。


 そもそも、このフィールドであと十回戦うとしてもゼインが全勝できるかは怪しいだろう。


 今回の試合は重要なことを教えてくれた。


 これからプレイヤーたちと戦争をしようっていうんなら環境を整えることは戦力を増強するのに匹敵する、いやそれ以上に重要なことかもしれないのだ。


 しかも、その重要性は戦いの規模が大きくなればなるほど増大する。


 プレイヤーが勝手に攻めてきてくれるというのなら、こちらも完全に専守防衛な拠点でいかせてもらおうか。


 ま、それもこの魔王軍最強決定戦が終わってからの話だな。え、最強が決まる前に敵が攻めてきたらどうするって?


 そりゃ、一番敵を倒した奴が最強だろ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る