第1096話 怒れる山羊
雪女がアイスに攻撃したのと、俺にアイスの声が聞こえたのはほとんど同時だった。
しかし、僅かながらアイスの声の方が早かった。
雪女の雪で固められたナイフのような武器による攻撃に対して、アイスはスキルを発動した様だが、特に何かするわけでもなく、そのまま攻撃を食らった。
そして、攻撃を受けた直後、アイスの体から氷柱が、まるでウニの様に何本も放射状に生成された。
その様はまるで蜜に誘き寄せられた虫を喰らう、食虫植物のようだった。
当然、今まさに攻撃しようとした、いや攻撃していた雪女は必然的にアイスの近くにいたため、その痛烈なカウンターパンチを食らってしまった。
完全に仕留めたと思った相手に対する最大リターンを取ったアイスはそのまま氷雪対決に勝利した。
「……」
その試合を見た俺は言葉を失っていた。
いや、別にアイスの強さに関しては今更とやかく言うことではないのだが、今回のスキルはいつもと少し毛色が違ったのだ。
いつもなら圧倒的な氷スキルで敵を殲滅、排除していたのだが、今回は致命傷を与えたものの、いつもみたいにこちらから攻める一手ではなく、守りの一手だった。
当然、俺の知らない間に新たなスキルを身につけていた、という可能性も大いにあるだろうが、今までのアイスからカウンター技が放たれるとは考えにくい。
何が言いたいかというと、アイスはこの試合中に成長した可能性がある。そして俺はそれに驚愕しているのだ。
視界を塞ぐ敵の攻撃に対して、こちらから攻められないのならば敵が必ず狙ってくるであろうタイミングに確実に差し返すという、今までとは似て非なる技を、この試合の中で完成させたアイスのポテンシャルに驚いている。
まだ、確定事項ではないのだろうが、半ば確信してしまっている自分がいる。
そして、これからもアイスは強敵と戦う度に、そして苦戦させられる度にこうして強くなっていくことを思うと……
もう赤子と思ってはいけないのかもしれない。
スケープゴートならぬレイジゴート……ただの身代わりじゃないところがアイスっぽいよな。これからはアイスを怒らせることには大きなリスクが伴うことをちゃんと覚えておこう。
もし、アイスが怒って俺と敵対したのならば、アイスにとって俺は越えるべき壁でしかなくなるのだから。
「ふぅ、」
良いものを見せてもらった。やっぱり従魔が成長してくれるのは嬉しいことだな。
ってことは、なるべく従魔が成長するような組み合わせにしたいな。だったら次の試合は……
「ゼイン対海坊主!」
さて、次は一体どんな試合を見せてくれるのだろうか。
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