第1089話 武人の戦い


 酒呑童子、それは鬼の中でも最上位の存在——ってさっきメガネくんに聞いた——らしいが、その見た目は鬼のように筋肉隆々で真っ赤な肌、というわけでは無かった。


 その体躯は俺より少し小さいメガネくんよりも更に小さい。端正な顔立ちも相まって頑張れば女の子に見えなくないほどだ。アシュラの方がよっぽど鬼っぽいくらいだ。


 だが、その小さな体には圧縮された強さが内包されているように感じる。また、そこから漏れ出る妖力によって、酒呑童子は女の子とは程遠い禍々しさを手にしているのだ。


 アシュラのようなザ・パワー系というのも王道で良いのだが、酒呑童子のような濃縮された力もこれはこれでアリだな。そんな二人がどんな戦いを見せてくれるのか、本当に楽しみだ。


「じゃ、二人とも準備はいいか? 武器、スキル、妖術はなんでもいくらでも使っていいからな。自分の全てを使って相手を倒してくれ。あと、死ぬこと、死なせることは気にしなくてもいい、俺が全力で回復させてやるからな」


 説明をした後、周りに取り囲む他の魔王軍のメンバーにも、同じルールだからなーと伝えて、


「じゃあ第一回戦始めっ!」


 二人の戦いは張り詰めたような静寂の中、始まった。武人同士が互いの間合いを図るかのように、両者対峙していた。そして先に動いたのは、アシュラだった。


 それは三対ある腕の一対を使って単純に殴りかかろうとするものだった。アシュラは体格が大きいが、だからと言って愚鈍というわけではない。元々は骨であるから、地味に機動力もあるのだ。言わば、骨に筋肉のみがついた、真の筋肉ダルマとも言えるだろう。


 そんな何の小細工もない、シンプルな攻撃な故に意図は読み取り易い。相手の力量を試しているのだろう。自分の攻撃に対してどんな反応をするのか。


 そして、酒呑童子の反応は目を見張るものだった。


 キンッ


 なんと、腰元にぶら下げていた刀を使ってアシュラの拳を弾いてしまったのだ。しかも、鞘から刀を抜かずに。


 全ての腕を使わなかったアシュラに対して、自分も刀を抜かないことで、本気を出せと言っているような雰囲気すらある。


 これは面白いことになったな。酒呑童子、期待以上かもしれない。


 そこからの攻防は、俺ですら少し早いと思うほどのものだった。アシュラが全碗を解放し、酒呑童子も刀を抜いた。


 刀に切られても大丈夫なアシュラが凄いのか、はたまたアシュラの六本の腕を刀一本で防げる酒呑童子が凄いのかもうよく分からなくなってきた。


 そしてついに、その場に一人勝者が残った。

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