第1086話 彼方で得たもの


「な、なるほど……」


 絶賛大炎上中の魔王城へ戻ると、中は外側ほどは燃えておらず、従魔が総出でお出迎えしてくれた。そしてハーゲンにたった今事の顛末を聞いたところだ。


 そして、只今魔王城を完全に包囲されている状態らしい。皆で--とは言ってもほぼ従魔たちだが--頑張って作った魔王国もその殆どが焼け野原と化していた。


 城からチョコチョコと攻撃してはいるものの、敵の数が余りにも多いのか焼石に水といった印象だ。


 まさか、俺が妖の隔世でまったりしている間に、こちらではそんな事態になっていたとはな。連絡が途絶えていたとは言え、もうちょっと気を遣うべきだったな。


「迷惑をかけて済まない。ただ、皆無事でいてくれてありがとう。一人でも欠けていたら平静を保てていたか怪しいからな。俺の代わりを務めてくれてありがとう、ハーゲン」


『は、はいっ!!』


 ハーゲンはよっぽど嬉しかったのか、体全身で喜びを表現してくれた。


 さて、ここからは俺の番だな。俺が出張って、事態を沈静化するのも一つの手なんだろうが、折角妖の隔世から帰ってきたんだ。その力を使うのも悪くないだろう。


「メガネ君、帰ってきて早々で悪いが、ちょっと対応してくれないか? アレ、この状況にピッタリだと思うのだが」


「アレ……? あぁ、アレですか! 分かりました、早速使ってきますね!」


 その場にいた従魔たちのほとんどをアレ? と首を傾げていた。だが、メガネ君を見ればその疑問はきっと驚愕と納得へと変わるだろう。


 メガネ君が単騎で城から出てくると、一瞬何事かと思われたのか城への攻撃が一時中断された。そしてその隙に、


「百妖夜行!」


 と唱えたメガネ君の周囲から一斉に妖が出現した。向こうの世界で仲間にした多種多様な妖たちが一斉に現れ、敵陣にさらなる困惑を与えることに成功したようだ。


 目には目を数には数を。やはり古代からある戦術は単純明快で強いな。


 餓者髑髏や酒呑童子など有名で強い妖怪に加え、もちろん三妖もいる。こっちの世界は初めてだろうからせいぜい楽しんでもらおうか。


 妖たちの戦いは圧巻の眺めだった。


 この世界にはない奇々怪々な妖術に対してプレイヤーたちはなす術なく倒されていくばかりだったのだ。


 そもそも現世と隔世ではルールが違うため、今まで培ってきた強さが通用しないのだろう。その点において妖たちはただのチートだった。


 特に三妖たちは溜まっていた鬱憤を晴らすかのように暴れ散らかしていた。大天狗の神通力は一瞬、効かないかとも思ったが、俺が隔世と現世をつなげてしまったことでこちらの住人たちにも僅かながら妖力が発生し、それに作用しているようだった。


 追加の妖や従魔が出張るまでもなく、呆気なく戦いは幕を閉じた。敵部隊の殲滅は敵わなかったが、その殆どを倒し残りを敗走させたのならば上出来だろう。


 そもそもプレイヤー相手に死がさほど問題でないことは俺が最もよく知っている。


「ふぅ、」


 まあ、これで一件落着だな。


 そう思った瞬間、


「陛下! 今しがた攻めてきたプレイヤーたちが声明を出しています!!」


 うわ、なんか懐かしいな、この感じ。どうやら俺は妖の隔世ですっかり平和ボケしてしまっているようだ。

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