第1085話 無力な指揮官


 それは主が不在の魔王城での出来事だった。


 ッドーン!


 進化の兆しが未だ見えないまま、鍛錬を続けていた私に大きな爆音と共に一つの報せが届いた。それは、この魔王国へと人間共が攻め込んできた、というものだった。


 ご主人様がいない今、当然指揮系統は筆頭従魔であるこの私に委ねられる。これはなんとしてでも城を守らなければならない。そうでなければご主人様に顔向けできない。


『アスカトル、配下を生成し敵戦力の把握をお願いします! ペレ、アイスそしてデトックスは広範囲攻撃を使って、敵を倒すというより足止めに専念してください』


 今までに無いほど頭をフル回転させながら、私は他の従魔に指示を出した。ご主人様はこのような重責の中、いつもあんなに余裕な態度を取っていらっしゃるのか……改めて素晴らしい人だ。


『スカル、ボーンは魔王国住民への説明と避難誘導、できれば兵の調達もお願いします。海馬とゾムとアシュラは城の警備を頼みます。私とゼインは空から攻撃を行いましょう。皆さん、アスカトルの配下を通しての連携を忘れずに。では命大事に、で行きましょう』


 誰か一人でも死んでしまうとご主人様が心を痛めてしまわれる。それは私自身が一番よく知っている。どうか、皆無事で……


 そんな願いも虚しく、アスカトルの報告から恐ろしい事態が判明した。


『ハーゲン様、今ざっと確認したところ敵兵は千を軽く超えております……もしかすると一万にまで届くかもしれません」


 い、一万……私は戦地に向かう途中戦慄を禁じ得なかった。ご主人様がいらっしゃればともかく、不在の状態で一万もの兵を相手取らなければならないというのは相当難儀なことだろう。


 私が現着すると、そこに広がっていたのは正に地獄絵図だった。攻め入ってきた人間共に魔王国の住民が必死の抵抗をしてくれていたのだが、それも虚しく無惨にやられていた。


 これは、かなり不味い。


『ペレ、貴方の広範囲攻撃が要です。周りの建造物など気にせず思いっきりやってください! デトは可燃性の毒ガスを撒き散らして、ペレのサポートをお願いします!』


 ただ、いくら一万の兵とは言っても、一度に戦える兵は限られている。入り口で侵入を阻止してしまえば数の利も抑え込めるはずだ。


『は、ハーゲン様、逆サイドに突如兵が現れました。その数凡そ千!』


『魔王城にも数百名侵入してきました!』


 な、何が起きているんだ? どうしてこんな同時多発的に攻め込まれている? 最初の報告をアスカトルが怠っていたわけではあるまいし、伏兵なのか? それとも……


『皆さん、できる限りの足止めを行い、一度城へ戻りましょう。籠城作戦に切り替えます!』


 このまま戦力を分散しては敵の思う壺だ。戦線を城まで下げて全員で全方向に対応した方が、勝機はある。それに時間を稼げれば……いや、それは今は考えないようにしよう。


 だが、城に集結した後もジリジリと敵の圧倒的な戦力の前に押し込まれていた。どうやら雑兵ですらそこそこの力があるらしい。


 この私に彼らを一掃できるほどの力があれば、ご主人様に心配をかけずに済むというのに……


 余りにも無力な自分が悔しかった。筆頭従魔とは名ばかりで一度は死に、そしてそれにより進化もリセットされたため、現状では従魔の中でも一番弱い。


 正当な進化をご主人様に望んだ癖に、未だその芽すら出ずに燻っているのだ。こんな私にはもう、、、


『ペレ、ゼイン、この城を燃やしましょう。デトックスは内側に火が回らないようにガスで上手く調節を行なってください。アイスと海馬はもし火がやってきた場合の消化と、引火しないよう氷と水でコーティングをお願いします。皆でご主人様が帰ってくるまで耐えましょう。どうか力を貸してください!』


 無力な者は、邪道を通り頭を下げる他ないのだ。








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お待たせいたしました!

本日よりどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

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