第1077話 逆に説く


 この奇妙な感覚はなんだろうか。まるで夢から覚めた後にその内容を思い出そうとすればするほど思い出せなくなるような、そんな感じとでも言えばいいのだろうか。


 絶対に認識されないようになっているからこそ、逆説的に認識できるような、そんな感じ。うん、自分でも何を言っているか分からないな。


 でも、確実にこの場にいることは間違いないのだ。確実にここに鵺がいる。


 俺がなんとも言えない感覚に陥っていると、メガネくんは何も感じていないのか、


「あ、このクエストなんてどうですか? 赤鬼と青鬼、更には緑鬼まで出てくるみたいですよ! 相手もそこそこ強そうだし、これを受けてきますね!」


 と、何事も無いかのようにどこかへと歩いて行った。


 何も見えない、何も知らない、何も感じ取れないって逆に幸せな状態だよな。ハッキリ言って無敵と言っても良いほどだ。


 ん、ちょっと待て。どこかって何だよ。この状況でクエストって言ったら受付以外考えられないだろ。なんでどこかなんて曖昧な表現した?


 もしかして、受付を意識できないようにされていた?


 バッ


 っと、慌ててメガネくんが行った方向を振り返ると、そこにはあるはずの受付が見えなかった。いや、見えないようにされていた、といえば良いのだろうか。焦点が合わずに網膜に映し出されていないような、そんな感じだ。


 さっきから結構ヤバいな、俺。確実に大天狗や天狐よりも強い存在の影響下に俺がいる。このままじゃ何をされているかも分からずに負ける。それはダメだ。俺には帰るべきところがあるのだから。


 俺はメガネくんの隣まで歩き、そして受付を見た。


 するとそこには、一番最初にここで手続きをした受付がいた。


「おい天狐、お前の配下の配下もお前の配下ってことだよな?」


「む、そうに決まっておろう。妾が頂点ならばその下にいくら配下がいようとも妾が王ということには変わりあるまい。まあ、今となっては妾の上にふんぞりかえる輩が現れたがの」


「そんなことはどうでもいい。目の前にいる受付、本当に、お前の配下か?」


「何を言っておる。この館は妾の配下がマスターをしておる。配下じゃ無いわけなかろう」


「そんなことは分かっている。だから聞いているんだ。よく見て答えろよ? 目の前の受付嬢は本当にお前の配下か?」


「っ……!? だ、誰じゃ此奴」


 よし、これで分かった。俺だけじゃなく天狐すらも意識誘導できるほどの力の持ち主で、尚且つ天狐の配下では無い存在、それはもうただ一人しかいない。


「おい、お前が鵺だな?」


 メガネくんはキョトンとした顔でこちらを見つめていた。そして、当の受付は……


「ふふっ、よく気が付きましたね。ですが、後一歩でした。残念ながら私は鵺ではありません」


 その瞬間、俺たちは夜に包まれた。






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間に合いました(いや間に合ってはない)

個人的に逆説、大好きです。現場からは以上です。

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