「「【無彩魔法】、ジ・イクリプス！」」

　双乗詠唱、これは二人で全く同じ魔法を使ったら単に威力が足し算になるのではなく、掛け算になるようにしたスキルだ。

　つまり、俺の魔法とメガネくんの魔法が掛け合わさった威力になるという訳だ。それが、この桃源牢獄のウィークポイントにぶち込まれれば……

　ッドーーーン！

　音を立てて崩れ落ちる、という訳だ。しかも、そのウィークポイントは妖力を供給していた地点でもあるため、恐らくあまりの威力に術者本人にも被害が及んでいるはずだ。

　そして、本来ならば用心深い天狐もこのダメージを食らった瞬間は、流石に自分の姿を隠すということにまで気が回らなかったようだった。というかまあ、それを狙ったわけなんだがな。

　俺の目に僅かに漏れ出た天狐のオーラのようなものが映った。

「メガネくん、敵の本丸の位置が分かった。ちょっと俺に捕まっていてくれ」

「は、はい？」

　俺はメガネくんを片手で抱え、スキルを発動した。

「【時間歩行】」

　このスキルは何度使っても慣れないのだが、まるで瞬間移動のように歩き、俺は天狐の目の前に到着した。

「やぁ、元気してるか？」

「なっ、き、貴様どうしてここが！？　妾の術が効いていないのか？」

「おいおい、桃源牢獄を突破されおいてまだそんなこと言ってるのか？　派手に攻撃してやっただろう。それに、その様子だと結構食らってるんだろ？　俺の目にはお前のキツそうな状態が一から百までお見通しだぞ？」

　天狐は妖術担当なだけあって、天狗と比べたら耐久力はかなり低い方で、今さっきの逆流攻撃で相当なダメージを負っていた。これすらも幻術でそう見せているだけだったら凄いが、反応からしてそれはなさそうだ。

「お前には二つの選択肢がある。ここで俺たちの配下になるか、それとも……滅せられるかだ。好きな方を選んで良いぞ」

「くっ、わ、妾が人間の僕（しもべ）などなる訳がなかろう！　こ、こうなったら妾の秘術をっ……！」

「オェエエエエ、オロロロ」

　あ、メガネくんが吐いた。もしかして時間歩行で酔ったのかな？　俺はメガネくんをまるで丸太を持つかのように抱えていたから尚更酔いやすかったのかも知れない。

　しかも、その体勢のまま戻したから……

「な、なんじゃこれは！　く、臭いぞっ！」

　目の前にいた天狐に直撃した。因みに俺の目にはリアルなものではなく、キラキラしたものが映っている。天狐からはどう見えているかは分からないが、反応からして幻想的なものが見えているわけではないということは確かだな。

「で、どうする？　滅せられたくなったか？」

　俺は全て計画通り、というような顔をしてニヤリと笑みを浮かべた。

　……メガネくん、なんかダシに使ったみたいになってごめんな。これは仕方のないことなんだ。

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