第1059話 見誤る


 大天狗との戦闘、これは思いの外、激しいものとなった。


「人間風情が儂に勝てると思うなよ?」


 ダンッ、ダンッ! と、ミサイルのようなドデカくて速い拳が飛んでくる。これは、単に腰を入れてるとかそう言う次元じゃなく、明らかに何らかの力が加わえられて物凄い速さになっているって感じだ。


 俺は腕を立てて、ボクシングのような構えでガードする。ダメージは無いが巨大な鉄球をぶつけられているような感覚がする。逆になんでこれでダメージが無いんだ、ってレベルだ。質量を大きくしてスピードを上げるってもうシンプルが故に最強の戦術の一つだよな。


 大天狗は空中を飛び回り、ただただ俺を殴りつけてくる。なるほど、この為に一階しかないのに異様に天井が高かったのか。こちらとしては楽でいいが、反撃の隙も中々見当たらないな。


 チラッと隣の土蜘蛛を見ると、何故かぼーっとしている。おいおい、見てるなら一緒に戦ってくれればいいのに。それとも、大天狗の神通力とやらにやられてしまったのか?


 まあ、いい。ここは俺がしっかりしないといけないと言うことだけははっきりした。ならば、あとは全力で挑むだけだな。幸い、大天狗は思いっきり殴っても大丈夫そうな見た目をしている、全力でいっても大丈夫だろう。


「【武神之構】」


 やはり目には目を、拳には拳を、だろう。俺は息を大きく吐き、気を整えた。


 思考が落ち着き、さらには相手の拳の軌道すらもえ、そして読めるようになった。先ほどまでは腕を犠牲にガードしていたのだが、武神の力があれば同じ動作に少しの回転を加えることで、敵の攻撃を絶妙な角度でいなす事ができるのだ。


 これが武神の力というわけか、強いな。流石に大天狗じゃ神の相手にはならないようだ。


 大天狗からしたらとてもびっくりしている事だろう。先ほどまではダメージは通ってないにせよ拳は当たっていた敵が、いつの間にかその拳すら当たらなくなったのだから。大天狗の目ん玉も驚きのあまり飛び出てきそうなくらい見開かれている。


 そんなスパーリングのような、指導対局のような殴り合いをしていると、流石に力をの差を感じたのか、大天狗に一瞬の逡巡と絶望が垣間見えた。俺はその瞬間を見逃さなかった。


「【時間歩行】」


 スキルを発動し、大天狗の顔面までした。しかし、大天狗からしたらそれは瞬間移動、いやテレポートにすら見えた事だろう。俺は目ん玉の前に拳を寸止めした。大天狗は天狗の長としての誇りか瞬き一つしなかった。


「どうする、まだ続けるか?」


「ふっ、降参だ。貴様の力を見誤っていたのは儂の方だったという事だな。殺せ、敗者には生きる資格はない」


「ん、何を言ってるんだ? 殺さねーよ? お前には配下になってもらう」


「は、配下? 殺さぬというのか敗者である儂を」


「あぁ、殺しても得なんてないだろ。それよりかは俺の下で働いてもらった方が良いってことよ」


「そうか。人間風情に従うのは気に食わんが、貴様ならば良いだろう。よろしく頼むぞ」


「いや、俺じゃなくてメガネくんの配下だ」


「……えぇ!?」








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見誤るって自分で口に出して言うと、何故か「あ」か「や」を一つ多く感じちゃうんですよね。

同志のかたいらっしゃいませんか?

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