第1054話 シムヤムクン

妖の館のマスター視点です。

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「あの人間共風情の為に妾を呼び出したと言うのか?」


「はい、そうでございます」


 妖の館のマスターであるこの私が媚び諂わなければならない存在、それが正に元妖會げんようかいだ。


 元妖會はこの隔世を支配する存在で、名実共に妖最強の名をほしいままにしている。そんな元妖會の下に我々マスターが存在し、各地に配置されていると言うわけだ。


 そして今回はその元妖會の三妖が一人、天狐様に来てもらっている。というか、私は天狐様の直属の部下なのである。であるからまず何か問題が発生した場合にはいの一番に報告しなければならないのだ。


「ふむ、これの何処が警戒に値するのかは分からぬな。確かに都知久母つちぐもを従えておるのはそこそこやると言ったところだが、それでもその程度なのだろう? 妾が出るまでもないぞ」


「はい、しかし都知久母は唯一元妖會に叛逆できる存在です。それを味方に引き入れる、それもこの世界にきて間もないのに、と言うのは警戒に値すると思われます。今はまだ芽が出ていない状態ではありますが、杭が出る前に叩くのも天狐様のお役目でございます」


「ふむ、そうじゃな。まあ良い、さっさと終わらせるぞ。【妖獣:四無しむ結界】」


 四無結界、これは相手の四方向、つまり方位感覚を無くすことで結界内に閉じ込めると言うものだ。結界内にいる者はまともに真っ直ぐ歩くこともできず、ただただ無意味に彷徨うことになる。


 天狐様はこれの上位互換、八無やむ結界も使うことができるのだが、あくまで人間如きに使うのはこの程度で良いと思っていらっしゃるのだろう。


 私もそう思う、いつもの私であったならな。


「うむ、まんまと引っ掛かっておるわい。あとは都知久母がどう出るかじゃが……何っ!?」


「なっ……!?」


 なんと、私たちが見ている先で対象の三人組がなんと真っ直ぐに歩き始めたのだ。


 恐らく、これだけ聞いても何に驚いているか分からない者が大勢いるだろう。だが、これは今あり得ないことが起きているのだ。


 私の予想だと、天狐様の結界が無事に働き、人間共の命枯れるまで歩くという未来と、人間が結界に気がつきそれを破壊し突破する、という二つがあった。


 しかし、実際はそのどちらでも無かった。まさか結界内にいるのにも関わらずその影響を受けずに過ごすと言うのはただ結界を破壊するよりも何倍も難儀なことなのだ。


 つまり、この者たちはそれだけの人間であると言うこと……


「おい、行くぞこれは面白いことになりそうじゃ。妾が相手にするのは少々勿体無いじゃろう。せっかくだからいつも鼻を伸ばしているアイツにぶつけてみることにしようぞ」


「はっ、かしこまりました」


「何処まで上手くいくかは分からぬが、せめて鼻の一本や二本、折って欲しいのう。クックック」

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