第1053話 絹毛


「おい、貴様ら談笑中悪いが、どうやら我ら何らかの術に嵌められているようだぞ?」


 俺とメガネくんが出口について話していると、唐突に土蜘蛛がそんなことを言い出した。


「ん、ちょっと待てそれはどう言うことだ?」


「ほう、貴様ですら感じ取れんのだな。先ほどから同じ所をずっと歩かされておるのだ。恐らく我らの方位感覚を狂わせておるのだろうな」


 マジか。メガネくんと話していたとは言え、全く感知できなかったぞ? いや、それも言い訳だな。恐らく俺は妖の術、に対しての感知能力が低いのだろう。今回も土蜘蛛がいなければ何をされているか分からないまま一方的にやられてしまう可能性だってあった。


「メガネくん、何か感じるか?」


 なんの気なしにメガネくんを妖術担当にしてしまったのが悔やまれるな。自分で対応出来ないのがこうももどかしいとはな。それに、部下に頼るのも情けなく感じてしまう。


「わ、僅かにでしょうか? これだけではどこから誰にやられているのかはさっぱり分かりませんね……申し訳ありません」


 俺より妖力が高いメガネくんが意識してもこうなのだから俺に気付ける道理は無かったのか。これは俺も妖力を溜めた方がいいのか? でも、それだと分散してしまうしな……


「四つ目が感じ取れぬのも無理はない。我ですら術者を特定できぬほどだ。かなり巧妙に、そして警戒して術を構築しておるのだろう」


「そ、そこまでか……」


 まあ、土蜘蛛が言うのならばそうなのだろうな。今回はメガネくんの力不足でもなんでもなく、単に敵の力が上回っただけと言うことだ。


 それにしても何故そんなに警戒されているんだ? さっきの報復か? いや、報復にしては早すぎる。そんな短時間で回復できるようなダメージを与えたつもりはない。


 つまり今回のは別の第三者ということになる。もしかしてダンジョンでの出来事を見ていたのか? それにしても情報が回るのが早すぎると思うのだが、なんらかの妖が監視していてもおかしくない。


「ん、監視……? はっ、そうだ」


 そういえばダンジョンに入る前、俺に監視がついていたな。ダンジョンに入って、その後のいざこざで完全に忘れてしまっていたが、確かについていた。もしそれが継続していたのだとすれば……?


 恐らく敵は妖の館の関係者ということになるだろう。なんせ、館を出てすぐに監視がついたのだからな。それにしても、何故前回は感知できたのに今回は気づかなかったんだ? 俺の気が緩んでいたというのもあるが、敵もギアを入れてきたのか?


「土蜘蛛、妖の館について何か知っているか?」


「館? 知らんな」


 そうだよな。あくまで土蜘蛛は古い時代から呼び出されてダンジョンに住み着いていた妖だ。隔世の現状についての情報は薄いのだろう。クソ、土蜘蛛に頼っている時点でダメだ。完全に気が抜けてしまっている。


 このままでは術に囚われている間に更になんらかの妖術をかけられてしまう。一刻でも早く対処しないと……


 とりあえず一旦応急処置をするか。


「【仙術】技生成、足跡生成ヘンゼルとグレーテル

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