第1052話 閉ざされた隔世


「それで次はどこに行くんだ?」


「次、ですか。一応また別のダンジョンに行くということもできますが……」


 そう言ってメガネくんは一旦言葉を区切った。迷って言い淀むというよりかは、何かを俺に提案したいような感じだ。別にそんなに気を使わなくてもいいのにな。


「ん、どうしたんだ?」


「あ、はい。ダンジョンで妖力を稼ぐというのも大事だとは思うのですが、陛下は妖力が必要ないということでしたので、それは詰まるところここに居る必要性がないということでもあると思うのです。ですから、出口を探し始めてもいいのかと」


「ん、もう帰りたいのか?」


「いえ、そういうわけではないのですが、まだ出口が見つかっていないこの妖の隔世では、帰りたくなってから出口を探していては、遅いのかなと思いまして」


「んー、確かにそうだな」


 いつでも帰れる状態がある、更には帰るべき場所があるからこそ出先で楽しめるというものなのかもしれない。その点、現実と仮想空間の関係もそれに近いのかもしれないな。


「それで、出口を見つけようと思って見つけられるものなのか?」


 まだ誰もここから脱出できていないことを考えると相当難易度が高いように思える。メガネくんのハイクオリティな頭脳を持ってしても突破できるかは分からない。


「そうですね、私もかなり情報を掻き集めたのですがそれでも一件もヒットしなかったくらいなのでかなり難しいとは思われますね。ただ、私たちには土蜘蛛さんが居ますからこれに関しても何か知っていることがあればと思うのですが……」


「む、我は何も知らんぞ。そもそも外界へと通ずる道などそうそうあるものではないだろう」


「流石に土蜘蛛でも分からない、ってことか」


 でも面白いな。俺たちからすれば出口でしかないが、妖からすればそれは外界へ続く扉であり、半ば禁忌に近いものですらあるのか、特にこの隔世においては。


「これは結構時間がかかるかもしれないな」


「そうですね……まだ誰も脱出していないことの原因として挙げられるのは、単純に出口が見つかっていない、出口を出現させるのにアイテムやボス討伐などのなんらかの条件がある、そしてここから出るのに出口は必要ない、の三つが考えられますね」


「ふむふむ」


 やはりこういうところで賢さの片鱗が見えるよな。何も手がかりがないからと言って諦めず、手元にある情報だけで論理を組み立て仮説を作る。それが間違っていようがいまいが、それ自体が行動の指針となり新たな情報を生み出すのだから、やっぱり賢い。


 一緒に来て良かったな。一人だったら帰れなかったかもしれない。妖の隔世に囚われた魔王ってもはや笑えないもんな。


「そもそも絶対にここから出られるよな?」


「流石にゲームである以上、出られないということはないと思いたいですが……」


「よし、それなら絶対に出られるはずだし、ゲームだから絶対に情報は転がっている筈だ。先ずは観光をしながら少しずつでも情報を集めよう」


「はい!」


 そもそも俺は初めての場所に来るだけで楽しいのだ。別に帰りのことなんて気にする必要もない。


「おい、貴様ら談笑中悪いが、どうやら我ら何らかの術に嵌められているようだぞ?」

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