第1045話 土蜘蛛

 

 だ、誰だよコイツ。ってかなんで妖の中から人間が出てくるんだ?


 その者は、刀を携えた男で、手足がすらっと異常に長く、胴体は短いためとてもスタイルが良いよ雨に思えるが、見れば見るほど現実にら有り得ないバランスでもはや気持ち悪い域に達している。


 俺もメガネくんも呆気に取られていると、蜘蛛の中から現れた人間の方が先に口を開いた。


「我が幻影の姿を打ち破る人間が現れるとはな。この姿で久しぶりに吸う空気は気持ちが良いものだな」


 不味い。恐らく自身のことを説明、というか手がかりを教えてくれているのだろうが、何を言ってるかさっぱり分からない。何だよ幻影って、あと、ここの空気はダンジョン内だから全然美味しくないぞ?


「あ、貴方は誰なんです??」


 メガネくんがそう叫んだ。敵が蜘蛛の姿じゃなくなって気が大きくなっているのだろうか? いや、それにしては声が震えてるな。


「ほう、我を知らぬ者がいるとはな。思いの外時間が経っているのだな。いいだろう、無知な人間に教えてやろうではないか。我は都久母つちぐも、王に仇なす者だ」


 男は刀を抜き、中段に構えた。手足が長いことでリーチもかなりのものになっている。気をつけなければ。


「陛下、確か古代ヤマト王権が存在していた頃、王に叛く者たちを土蜘蛛と呼んだ、と言う資料をどこかで読んだ覚えがあります。もしかすると、近世以降の妖怪の方の土蜘蛛ではなくそちらの方が元になっているのかもしれません」


 ほぇー、詳しいな。さすがメガネくんだ。でもなんで嫌いな蜘蛛のことについてそんなに知っているんだ? 嫌いだから調べまくった、とかなのか? それってもうほぼ好きだろ。


「分かった、ありがとう。メガネくんは下がっておいてくれ、先ほどまでの蜘蛛とはまた雰囲気が違う。後、隙があったら従えられるかどうかも試してみてくれ」


「はいっ!」


 なるほど、だから炎が効かなかったのか。コイツは蜘蛛じゃないのだから。そんな奴がいるなんてアスカトルが聞いたら憤慨しそうだが、生憎こっちにくることはできないからな。俺が成敗してやる他ないだろう。


「我が刀を見よ。【狼刀ロウトウ】」


 男がそう言うと、目にも留まらぬ速さで刀を振るった。長い手足がバネのように伸び縮みし、全く捉えどころのない動きになっている。俺もスキルを使わなければ目で追えないほどのスピードだった。これはそんじょそこらの妖とは訳が違うな。


 それこそ古代から近世へと姿形を変え伝承されてきたものだ、弱い訳がない。


「ほう、これを見てまだ立っている人間を見るのは久しいな。だが、これはどうだ? 【梟刀キョウトウ


 ッダン!


 先ほどまでの鋭くしなやかな太刀筋とは打って変わって、今度は一撃の重さに重点を置いた弩級の攻撃が繰り出された。しかも、恐ろしいのは威力が上がったくせにスピードが落ちていないことだ。


 まるで運動エネルギーは重量と速度だ、と言わんばかりの攻撃だ。でも、俺に刀は効かない。なんならさっきの狼刀もほとんど当たってる。避けているフリをしてただけだ。


「これは驚いた。これを食らって立っていた人間は愚か妖ですらそういないぞ。ならば我の最終奥義を見せやろう」


 都知久母はそう言って刀を鞘へ戻した。


「【梟狼一閃】!」


 キンッ!


 その一太刀は狼刀の鋭さと梟刀の強さを兼ね備えた、いやそれら二つよりも鋭くて重い、まさしく最強の一撃だった。


 ん、ちょっと待てよ? なんか俺のスキルと似てるな。


「【鴉狼一夜】」

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