第1044話 大蜘蛛


「ぎゃーーーー! た、助けてー!」


 俺たちは今、ダンジョンの中にいた。そして、ただ今メガネくんが絶賛モンスター、じゃなくて妖に追っかけ回されている最中だ。


 俺たちは順調に妖を倒し、ダンジョンを攻略していたのだが、何度目か階層を降った時、新たな敵に遭遇したのだ。


「ぼ、僕蜘蛛だけは、蜘蛛だけは苦手なんですぅー!!」


 そう、なんと大きな蜘蛛が俺たちの前に現れたのだ。そしてメガネくんは大の蜘蛛嫌いらしく、先ほどからずーっとダンジョン内をグルグル、グルグルと走り回っている、という訳なのだ。


 ってか、蜘蛛が無理ってウチのアスカトルも蜘蛛なんだが? もしかして心の中では苦手意識を持たれていたのだろうか?


「メガネくんー、俺が引き受けるからこっちまで引きつけてくれ!」


「は、はい〜!」


 なんとも頼りない声で返事をしたメガネくんは、息も切れ切れな状態で俺の元まで走り切り、バトンタッチしてくれた。そんなに苦手ならなんで蜘蛛を一目見た時に俺に頼らなかったのだろうか。不思議でならないな。


「グォおおおお!!」


 俺の前に対峙した蜘蛛は前脚を掲げ、俺に威嚇するように吠えた。体長も現実世界の象くらいの大きさでかなりの迫力があった。これは確かに逃げたくなる気持ちも分からんでもない。そういえば蜘蛛って前脚あげるなんてことできたっけか? 後でアスカトルに聞いてみよ。


 今は取り敢えず、


「【蒼火】」


 蜘蛛の弱点は火属性って相場が決まっているからな。正直、恐るるに足りないのだ。メガネくんにもお守り用として火属性のスキルか魔法を習得させてもいいな。


 俺から放たれた青い炎は、大蜘蛛を一瞬にして呑み込み灰に変えた、と思っていた。だが、


「あれ?」


 大蜘蛛は無傷のまま、俺の前に立ちはだかっていた。どうやら一切ダメージが入っていないようだ。土蜘蛛が不敵な笑みを浮かべたように感じた。そして、俺に向かって糸を発射してきた。


 流石に糸は炎と相性が悪すぎるし炎が効かないわけがない、先ほどのようにダメージが通らない、ということはないと思い再び俺は蒼炎を発動した。しかし、その糸はまるで水を弾くかのように炎を寄せ付けずそのまま俺を拘束した。


 あれ、なんで炎が効かないんだ?


「陛下! もしかしたらその蜘蛛、土蜘蛛かもしれませんっ! 土に炎は相性的に不利です!」


 土蜘蛛、確かになんだか聞いたことあるな。日本の妖怪だっけか? そうか、コイツはモンスターじゃない、妖なんだ。俺の今までの常識や知識は通用しないと考えた方がいいな。俺としたことがついついいつものように戦ってしまったぜ。


 相手が妖怪、そして火が効かないと分かれば、やりようはいくらでもある。


 目の前の土蜘蛛は大きな鎌がついた前脚を持ち上げ、俺に振り下ろしてきた。


 キンッ!


 お前が炎効かないのに、俺に刃物が効くって考えるのはおかしな話だよな? そもそもお前の刃物はあくまで偽物だ。本物はこういうものを言うんだ。


「【天絶之剣】」


 俺は土蜘蛛を一太刀で真っ二つにした。


 すると、その大きな大きな土蜘蛛の亡骸から一人の男が現れた。


「…………は? 誰?」

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