第1036話 隔世で覚醒


 俺たちは妖を従えるべく、この世界を練り歩いていた。あとこれはメガネくんが調べてくれたのだが、どうやらこの世界は妖の隔世という名前があるらしい。


 現実と隔てられた、出口の無い世界ってことか。ますます攻略したい気分になってくるな。


 それにしてもこの世界は、なんとも不思議な世界だ。日本の妖怪のイメージが強い江戸時代のような雰囲気もあれば、西洋の妖精感のあるメルヘンチックな雰囲気もあるのだ。


 それら全てが渾然一体となって、カオスを生み出している。だが、それでいて浮いている感じもしないところが凄いな。


「あ、妖見つけましたよ! あれはもしかして座敷童ですかね?」


 ん、この感覚……誰かに尾けられているな。どこからか確実に視線を感じる。でも、どこからかは分からないあたり、かなりのやり手であることは間違いない。その証拠にメガネくんもまだ気が付いていない。


 これは本人に伝えるべきだろうか?


「座敷童とっても可愛いですね! どうしましょう! 懐柔で行けますかね?」


 うん、伝えるのはよしておこう。なんだか楽しそうだし、この状況で伝えたら尾けられている相手にも反応でバレてしまうかもしれないからな。俺もあくまで同伴者に見えるよう、微笑ましい顔をしておこう。


「好きなようにすればいい。そこまで強そうじゃ無いから懐柔でいけるんじゃないか?」


「そうですね! じゃあ懐柔路線で行ってみます! 座敷童ちゃーん、こっちおいでこっちこっち〜」


 ただ、ずっと見られているだけ、というのも嫌だな。俺が反撃したとはバレないようになんとか処理したい。こういう時は、


『アスカトル!』


『召喚に失敗しました』


 ……はい? マジで? え、もしかしてここが隔世だからとか言わないよな? 現実世界から持ってくることはできませんとか言わないよな?


 ……マジかぁ。これはかなり緊急事態だな。俺がいかに日頃から従魔に頼っていたかが分かるな。仕方がない、少し不自然にはなるが強引な方法でいかせてもらおう。こちらの情報ばかり抜き取られるのは性に合わない。


「【我霞故我】」


 俺がスキルを発動すると、俺らがいたあたり一帯を薄い霧が覆った。本当は霧じゃなくて霞なんだろうが、正直に言って違いが分からない。


 まあ、そんなことはどうでも良い。霞で広範囲を覆うことによって、俺はその霞がある場所ならどこにでも意識も、体も、飛ばすことができる。なんなら同時に幾つかのポイントに設置することすらできそうだが、今は探すだけでいいから一先ずこれでいい。


 霞になった俺が隈なく探していると、建物の中に怪しい影を発見した。どうやらコイツが俺を見張っているようだ。


「ほらほらー! 僕と一緒に来ない? 一緒に来たら一杯遊べるよ? しかも、おーーーっきなお城に住むことだってできるんだよ? ……まあ、僕のじゃないんだけどね」


 俺が取るべき選択は二つある。一つはここで絶命させることだ。それだと一先ず監視を終わらせることはできるだろうが、その後第二第三の刺客が送られてくることだろう。


 そこで二つ目の方法だが、撃退するというものだ。監視している俺が何もしていないのに、撃退されてしまえば上に報告し難くなるだろうからな。


 と言うわけで殺さないように良い塩梅で、


「【皇鵝襲刃】」


 俺は窓の外からスキルを発動したが、無事、ペンギン達は屋内に発生してくれたようだ。刃を咥えたペンギンが俺を監視していた妖を襲って……


 やべ、殺してないよな?


「陛下ー! やりましたよー!! 座敷童ちゃんゲットです! これからきっといいこと起きますよー!」


 俺は突然、自分の体の方に意識を呼び戻された。まるで、夢から覚めたみたいだ。


「お、おう。それは良かったな」


 目の前には可愛い座敷童を抱いたメガネくんが立っていた。うん、平和そうで何よりだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る