第1037話 守るべきモノ


 メガネくんは座敷童と手を繋ぎ、遠足気分を楽しんでいるようだった。俺は絶賛監視中で要人気分を味わされていた。どうやら俺の監視についたのは一体だけではなかったようだ。これは面倒臭いことになったな。


「へい……そういえばどうして魔力測定をもうしてる、なんておっしゃったのですか? まだ、してないはずですよね?」


「あぁ、そうだな。だが、ほら俺は特殊な役職だろう? それに魔力からなんらかの情報を得ることは可能なはずだ。でなきゃわざわざ測定だなんて言う必要がないだろう? まあ、平たく言うとまだ信じ切れていないんだ」


「ふむ、確かにそうですね。私も登録したのは迂闊だったでしょうか?」


「いや、大丈夫だ。こう言ってはなんだが、メガネくんが人柱になったおかげでこちらも情報を得ることができるからな。感謝しているぞ」


「そ、そんな〜! へい……ご指名とあらば何度でも人柱にくらいなりますよ?」


 さっきからずっと陛下呼びが抜けてないな。ってかその後に続く敬語のせいで、メガネくんからしたら俺がやんごとなき人間だと言うことがバレそうなんだが。まあ、そこまで求めるのは酷だろうが。


「それにしても可愛いですよね! 僕、一人っ子で尚且つペットを飼ったことが無かったので、こういうの一度でもいいから体験してみたかったんですよ!」


 メガネくんは嬉しそうにそう言って座敷童を高い高いしていた。座敷童をペットとみているのか、弟あるいは妹とみているかは定かではないが、相当嬉しいと言うのは伝わってくる。確かにペットという存在は良いよな。


 現実世界で飼ったことはないが、この世界では俺もハーゲンを含めかなりたくさんの従魔を飼っているから気持ちはよく分かる。


 だが、そんなメガネくんに妖は敵だということを伝えなければならないのが辛いな。


 現に今も尚監視されている訳で、その座敷童すらも徹底的に教育された向こうの駒かもしれないのだ。いずれ来るであろう、別れの時にメガネくんは何を思うのだろうか。できればあまり愛着を持って欲しくないというのが俺のエゴなのだが……


「ほらほらこっちだよー! うふふー、よくできました!」


 あんなに楽しそうにしているメガネくんに「妖は警戒しろ、信じるな、愛着を持つな」なんて言えない。


 ただでさえ魔王の参謀ってことでゲーム内でも友人とかができにくいっていうのに、そんなこと言える訳ないのだ。


 俺がやるべきことは、敵の正体を見極め、倒すか和解するかなんなりをして妖と人間が共存できる世界を作り出すことだな。


 あれ、最初はここに強さを求めてきたんだよな? どうしてこんなことになってるんだ?


 でも、メガネくんの笑顔は守りたいし……


 こうなったらとことんやろう。メガネくんの日頃の感謝のつもりで全力で立ち向かうのだ。俺が圧倒的な力を見せつければ妖だって俺に従った方が得って思わせられるかもしれない。いや、思わせてやる。


 覚悟しておけよ。


「ウぎゃー!! ちょっと待った、それ僕の大切なメガネーー!!!」


 ……うん、魔王様がきっと守ってやるからな、そのメガネ。


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