第1035話 マスターの衝撃


 私は妖の館の受付を担当しているゴーストです。この度は厄介な事件が発生してしまい、それについて上司に報告しなければいけません。


 はぁ、なんとも憂鬱です。


 コンコン


「マスター、ご報告があります」


「ほう、受付のゴーストか。分かった、入れ」


「は、失礼致します」


 ここはこの館のマスターの部屋です。本来であれば、普通私のような一介の受付が易々と入れる様な場所ではありません。


 そんな場所に私が入るということだけで、ことの重大さが窺えるわけです。


「それで、何用なのだ?」


「今回は新たに登録をしにきた人間についてのご報告です。なんとたかが人間の分際でマスターと同程度の魔力量を保有している者が現れました」


「何っ!? この私と同じ魔力量だと? そんなことがあり得るのか……?」


「はい、私も非常に目を疑いましたが、何度行っても同じ結果でした。しかも、属性まで付与されていたのです」


「なっ、まさか属性持ちだと言うのか……それで何の属性なんだ?」


「それが、光と闇の二つの属性を持ち合わせていたのです!」


「……っ!?」


 光と闇の属性を持つということ、これは字面だけでは分からない恐ろしさがあります。


 そもそも自分の体を流れる魔力に属性が付与されるだけでも凄いことなのです。気の遠くなる程の鍛錬を積み重ねて漸く辿り着ける境地なのです。そして、その属性が二つもある。これだけで人間離れしていると言えるでしょう。


 しかし、問題はここからです。正直私たち妖にとっては二属性持ちは貴重な存在ですが、そこまで珍しいものではありません。


 問題はその組み合わせです。


 基本的に私たちは五行の世界で生きており、それらの隣あった属性は取得し易く、遠い属性はより難しいとされております。


 そしてより価値が高いのは遠い組み合わせを持っている者です。何故ならそれだけで希少価値が跳ね上がり、使える技も多岐に渡るからです。


 その点において、今回の人間はハッキリ言ってヤバいです。


 そもそも五行には存在しない光と闇の属性、これらは一つを持っているだけでも二属性並の価値があります。


 そして、その両方は対極の存在であり、それを持つと言うことは……


「これは、私たちの世界に危機が訪れるかもしれんな」


 マスターの言った通り、とんでもないことが起きるかもしれません。


「マスター、実はもう一つ報告があるのですが……」


「ほう、聞こう」


「はい。今回登録した人間に実は付き添いがいたのでございます」


「ふむ、それがどうした」


「私はその人間も魔力登録しようとした所、もう既にしていると言って断られてしまいました。しかし、その人間の登録情報はどこにもありませんでした。光と闇の属性を持つ人間の、これは注意に値するのではないでしょうか?」


「付き添い、か……」


「しかもです。ここからは私の所感なのですが、その付き添いの人間方から遥かに恐ろしい、気味悪いオーラを感じました」


「そうか、報告ご苦労であった。こここらは私が直接対応しよう。仕事に戻ってくれ。少なくとも監視をつける必要がありそうだ」


「は、失礼します」


 そうして私の憂鬱な報告が終わりました。




 これから確実に何かが起きる。私も身の振り方を考えないと……

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