第1030話 妖への招待


 メガネくんに案内された場所に向かうと、そこには物凄い人だかりが発生していた。ここは山奥の木漏れ日すらないような場所なのだが、そんなところに人混みがあるのが違和感でしかない。


「もしかしてこれ、全員プレイヤーか?」


 どうやら妖の世界に行く際に、一つのパーティ毎しか入ることができない仕様らしく、それによって大混雑と大行列を招いてしまっているようだった。


「どうやらそうみたいですね……すみません、私のリサーチが遅れたばっかりに……」


「もうその話は終わったことだ、切り替えてこれからどうするか考えよう。律儀に並んで待っても別にいいが」


 流石にそれは時間が勿体無いし、何より退屈だ。そんなことをしている間に俺の気分が下がってしまう。それにその間、敵は強くなっているのに俺だけ何もしないというのは嫌だ。


「なあ、裏口みたいなのってないのか?」


「う、裏口ですか? 流石にないんじゃないですかね? あったとしてもそちらも混んでいそうですが」


「そうだよなー」


 裏口から入るという平穏な手段は取らせてくれないようだ。じゃあ、穏便じゃない手段を使ってもいいよな?


「なぁ、俺って魔王だよな?」


 俺はメガネくんにしか聞こえない声でそう言った。


「え? は、はい。もちろんそうですけど……それがどうかしたのですか?」


「いや、ただほら魔王って人間と敵対してるだろ? だから別に魔王が人間を殺めることって別に悪いことじゃないよな?」


「は、はぁ……そりゃ魔王様の立場からすれば問題なんて何一つないと思いますよ? も、もしかしてここでやっちゃうんですか?」


 どうやらメガネくんも俺の意図に気がついたようだ。でもまあ、安心して欲しい、


「ちょっと整理券を配布するだけだ。【鏖禍嵐蔓】」


 俺がスキルを発動すると、今までただの人だかりだった物が一瞬にして大パニック集団へと変貌した。


「ゲホッゲホッ、なんだコレ、毒か!?」

「オェエエエエ、気持ち悪い……」

「の、呪い!?」


 阿鼻叫喚地獄絵図とは正にこのことだな。


「よし、メガネくん走るぞ、って、あ」


 メガネくんはただ今絶賛死にかけていた。そういえばメガネくんには耐性が無いの忘れてたな。これを機に耐性もある程度はゲットさせないといけないかもな。とりあえずは、


「【攻贖他愛】、大丈夫か、メガネくん?」


 これでメガネくんのダメージを俺が肩代わりすればなんとかなるはずだ。


「あ、ありがとうございます陛下」


「気分は優れないかもしれないが、今がチャンスだ。走るぞ!」


 そう言って俺らは苦しむプレイヤーを横目に全速力で駆け出した。幸いなことに皆んなが倒れ込んでくれたため、入口はすぐに見つかった。渦状になっている落とし穴みたいな感じだ。


 俺はそこに、逆さに落ちた。


「ってててて……」


 ドスン!


 俺が尻餅をついていると、隣にメガネくんが頭から落ちてきた。マジで頭から落ちてきてたのか。もう妖の世界、って感じだな。


「大丈夫か、メガネく」


「お、またカモがやってきたな? 今更こんなところに来たってどうしようもねーのに。マジでアホっているんだな!」


 突如背後から声がしたので、振り返ってみるとそこにはなんともガラの悪そうな二人組が立っていた。


「おいおい、そんなこと言ってないで早く教えてやれよ、ここのルールをよ! ケッケッケ!」


「メガネくん、」


「ダメです。落ち着いてください。陛下が怒ると恐らくこの世界が消えちゃいます。ここは陛下から賜った私の力で収めてみましょう」


 俺が額に青筋を浮かべていると、メガネくんがそう言って素早く立ち上がり一歩前へと歩み出た。今さっき転落してきたというのに、タフだな。


 だが、それと同時に俺は絡んで来た奴のある言葉に引っかかっていた。

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