第1028話 初心忘るべからず、されど
グサッ
俺は今、始まりの森でウサギに刺殺されていた。スキルと称号を全て封印してまっさらな状態で死にまくっている。
これは、俺がこの世界に降り立って一番最初に行ったことだ。今改めて考えてみると、狂ってるよな。みんな楽しむ為にゲームしてるっていうのに、一人だけ死ぬ為にゲームしてるんだもん。そりゃ運営から目も付けられるよな。あんな質問をされたのも納得だ。
そして、久々に食らうとこれまた痛いな。現実では絶対に感じることのない——感じる頃にはもうすぐ死ぬ——痛みはやっぱり新鮮で辛いな。
でも、最初に比べてかなり慣れてしまったような気がする。もっと絶叫していた気がするが、今では少しのうめき声で耐えられるほどだ。
俺も変わったしまったということなのだろうな。
今の俺は痛みにも強くなったし、死に対する考え方も変わった。それに、多分彼女に振られたからと言って死のうとは思わないだろう。今思うと本当に幼稚だったとは思うが、その俺がいたからこそ今の俺があるのだから別に肯定も否定もする必要はない。
もしかしたらもうゲームを始めたての頃のような感情は手に入らないのかもしれない。
俺はその後、中毒死、溺死、転落死など様々な死に方で感情を再現しようとしたが、どうにもうまくは行かなかった。多分、その感情を感じている真っ只中じゃないと心界支配は完成しないのだろうな。
そういう意味では俺は今、絶望はしてはいないのだから良いことだろうが、技が完成させられなのは問題だな。まあ、運営さんもその場のノリで言ってた可能性もあるし、強くなる方法は何も心界支配だけじゃない。焦らずじっくり進めていこう。
それに、俺の場合は普通に死ぬだけでも、
「いってぇーー!!」
急所にホーンラビットのド角がド急所にド直撃した。もしかして俺は痛みに慣れたんじゃなくて、痛いのが来るって分かってるから気構えが出来ていただけかもしれない。不意打ちだとクッソ痛いぞこれ?
でも、一周回ってコイツらは可愛く見えてきたな。俺が本気を出したらコイツらは呆気なく死んでしまうわけだし、殺意すら芽生えないな。それに、俺にとって魔物はもう庇護対象なのだ。むしろコイツらを人間から守ってやりたくなってくる。
ん、ってことはやっぱり人間を駆逐しないといけないってことだよな。ウサギたちの日常を守る為にも心界支配を含めもっと強くならないとだなー。
にしても感情を引き起こす、呼び起こすって難しいな。今回、それをしようとして分かったことは、自分ではどうしようもできないものが感情、っていうことだ。だからこそそれはとても大きなエネルギーを持っているのだろうな。
感情を記憶する為にもまずは、ゲームを始めた頃とはまた違う新たな感情を見つけよう。俺はもう変わってしまったんだ。どれだけ過去を辿ろうと過去には戻れない。だからこそ、どれだけ時間が掛かってもいいから、嘘偽りのない本物の感情を探しにいこう。
そして、俺がそれを手に入れたらきっと心界支配が使えるようになるはずだ。
『陛下、有用な情報を入手致しました。もし時間がありましたらお城の方へお願いします。どうやら、
ほう、妖か。面白そうだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます