第1027話 爺さんのソナタ
「ふぇ? 一緒に行く、じゃと……?」
「はい。爺さんにはこれからも心界支配を教えていただきたいですし、何よりもこんな暗い場所にずっといるのなんて退屈じゃ無いですか? 外の世界も見てみたく無いですか?」
「外の世界……」
うんうん爺さんはかなり前向きに検討してくれているみたいだな。確か以前にもこの爺さんと召喚契約を結んだような気がするのだが、そうじゃなくて普通に魔王城に常駐してくれればそれだけで防衛戦力は跳ね上がる。
俺ですら今から習得しようとしている心界支配をもう扱えるんだからな。頼もしいことこの上ないだろう。
「じゃが、邪神様が……」
「大丈夫ですよ! 最悪思いっきりぶん殴れば邪神様でも言うこと聞いてくれるでしょ! それに仮に爺さんが死んでも助けますから」
「なっ……」
俺がそう言うと爺さんはとても呆気に取られたような顔をした。そして、
「ふぉっふぉっふぉ、まさかここから出られる日が来ようとはな。儂は死ぬまでここにいるものとばかり思っておったわい。残りの短い余生を其方に預けるとしようかの」
よっし、完璧だな。教師プラス防衛戦力ゲットだぜ!
「じゃあ行きますか!」
❇︎
テレポートでもあれば楽だったのだが、生憎そんな便利なものはなくハーゲンの背中に乗せて爺さんを俺の城まで運んだ。爺さんは俺の自室を見ると、
「な、なんと立派な部屋なんじゃ……これを自由に使っていいと言うのか?」
盛大に勘違いしてくれていた。いや、これは俺の部屋なんだけど。ま、爺さんをここに連れてきた代償として部屋を間借りされるくらい別にいいか。自由に使ってもらおう。俺は大して使ってないしな。
それに部屋はまた増築すれば良い。
「はい。自由に使ってください。ですが、先に私に心界支配の極意を教えていただけないでしょうか?」
「ん? あ、あぁ分かった」
おい、今完全にベッドにダイブしようとしただろ。ってかこの爺さん風呂入ったのか? ……よし、俺の部屋はまた後でこの部屋の奥か上に作ろう。
「心界支配の根幹を成すのは、自分が一度経験した感情じゃ。それが無ければ技は発動せんし、その感情が弱ければ技の威力も大したことにならない。まずは自身の感情と向き合ってみることじゃな」
「俺の感情と向き合う……」
俺が心界支配に使おうと思っている感情はそう、絶望だ。このゲームを始めるきっかけにもなった絶望感を持って心界支配を発動させるつもりだ。
だが、爺さんの言ったようにこの技の威力を強めるためには、この感情を強くしなければならない。最近は普通にゲームを楽しんでおり、最初の感情はすっかり忘れてしまっているように思う。
まずは原点に立ち返るところからスタートだな。
俺の原点は一つしかない。ただ只管に死にまくってあの感情を思い出すんだ。俺が強く絶望すればするほど心界支配は強くなるなら、俺はどこまででも絶望してみせる。
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