第1026話 心の支配
はぁ、俺はまたやってしまったかもしれない。俺はふと冷静になりそんなことを考えた。
選定の時になんでもやりすぎは良くないと学んだはずなのに、同じようなことを従魔においてもやってしまったのだ。
そもそも合成して強くなる、っていうのが絶妙に俺に刺さってて、ついつい楽しくなってやりすぎてしまうんだよな。まあ、従魔を強化することは元々やりたかったことだし、もう終わったことにウジウジ言うのはやめだ。
そんなことよりも今は心界支配について学ばないとな。そもそも今回、この邪の祠に来たのはその為なのだ。従魔を強化したのはあくまでおまけで前座だ。
邪の祠最奥部に到達すると、そこには一人の爺さんがいた。前きた時は何かギミックがあったような気がするんだが、まあ良い。やっとここまで来ることができた。
「ほう、其方は……」
爺さんは俺を視認すると目を細めてそう言った。
「その節はお世話になりました」
ちょっと前のことすぎて何をどうお世話になったか定かじゃないが、お世話になったことは覚えているのでとりあえずそう言った。そして、突っ込まれると面倒臭いのでそのまま矢継ぎ早に本題へと切り込んだ。
「今回は、貴方に心界支配をもう一度しっかり教えていただきたいと思い、ここまでやってきました」
「心界支配、か」
爺さんはそう言うと物凄い遠い目で虚空を見つめた。この爺さんは確か俺と同じ破戒僧で、ずっとここに囚われている、みたいな設定だった気がする。
ってか、こんな感じだっけ? 前はもっと普通に受け応えしてた気がするんだが、どこか老いのようなものを感じる気がする。成熟、と言った方が良いだろうか。
でもまあ確かにいくらNPCとは言え、こんなところに悠久の時間監禁されていたら、そうなってもおかしくないのか。爺さんの目は全てを呑むような、正に深淵を体現していると言っても過言ではない様子だった。
「私に今一度、心界支配を使用してはいただけないでしょうか?」
「……自らそれを望むか。それもまた人の業なのだろうな。貴様がどうなっても知らぬぞ?」
「えぇ、もちろんです」
「よかろう。最後に使ったのがいつなのかは分からぬが、とくと味わうが良い。【心界支配:虚無】」
その言葉が聞こえると同時に、俺は激しい虚無感に襲われた。ぼーっとするような、何をする気にもなれない、全てがどうでも良くなるような、そんな気分だ。考えることも億劫になるほどの虚無、何かを考えようとしてもすぐに霧散してしまい焦点が定まらない感じだ。
そして、俺の気分が、心が虚無に支配されていると、それに呼応するかのように現実の世界に変化が訪れ始めた。その時俺は直感的に理解してしまった、これが爺さんの感じている虚無なのか、と。
目が虚になり、世界が溶けていくような感覚に襲われたのだ。自分の感情を相手に押し付け、それを肉体にまで影響を及ぼしている。これが心界支配……そこから悠久の時が流れたような気がした。
「はっ……!」
気がつくと俺は爺さんの目の前に突っ立っていた。技をかけられる前となんら変わらぬ状況だ。
「ほう、正気を保っていられたか。たった二秒間とは言えなかなかやりよるのぅ」
これで二秒、恐ろしいな。だが、だからこそ俺はこの技を取得しなければならない。
以前来た時よりも解像度高くこの技を認識できた気がする。帰ってからは特訓だな。
「あ、そうだ。爺さん一緒に帰ります?」
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