第1020話 超高度な心理戦


「では改めまして本日はどうぞよろしくお願い致します」


 俺は只今、椅子に座らせられ借りてきた猫状態になっていた。それにしても運営さんってこんな丁寧な物腰でインタビューするものなのか? この世界の神なんだからもっと威厳のある態度でもいいと思うんだが。


「よ、よろしくお願いします……」


 はぁ、本当に人と会話するのが苦手だ。早く終わらないかなー。


 どうやら二人いる内の背の小さい方がインタビュアーのようだ。もう一人は何の為にいるのだろうか。もしかして俺の反応を逐一確認しているとか?


「まず最初にこのゲームを始めるきっかけを教えて頂きたいです」 


「は、はい……え、えーっと」


 不味い、初手から非常に不味い質問が飛んできた。これは正直に答えたら絶対に不味いよな? 死ぬ為です、とか言ったらまず間違いなくドン引きされるし、ゲームの印象にも泥を塗ることになってしまう。


 ん、でも待てよ。運営は俺にインタビューするに当たって俺に関して粗方の情報は知っている訳だろう? それなのにこの質問をしてきたということは正直に話しても良いのか?


 ……い、いやそれはない。側から見たら俺がただ強くなる為に死んでいるとしか思えないはずだ。それに俺の心情を読み取れるほど技術は発展していないはずだ。ならば無難な答えを言うしかないな。


 友人から勧められました、はそもそも友達なんていないからダメだし、宣伝を観ました! なんて言って何の? とか聞かれたら詰む。ならば、俺のすべき答えは、


「ゲームを買おうとしたときにたまたま目に留まり面白そうだと思ったからです」


 うん。これなら嘘じゃないし突っ込まれることもないだろう。


「なるほど! それはそれは素敵な出会いをありがとうございます。では、次は少し突っ込んでもよろしいでしょうか。ライト様は日頃あらゆる方法でご自身及び周りの方を強化なされていると思いますが、それは何故ですか?」


 ん、何故強くなっているのか、だって? んー改めて問われると難しいな。


 最初は死ぬ為だけにゲームを始めて、死にまくっていたら気づいたら強くなって、強くなったら守るべきものがたくさんできて、その為には力が必要で……


 改めて考えてみても強くなるのに、俺は理由なんて持ち合わせてないように思える。勝手に流されてここまできただけだ。それ以上でもそれ以下でもない。


 でも、これを正直に言うわけには行かないよな。さっき嘘ついてたことがバレるし。なら答えるとして強いて言うなら、


「強くなりたいからでしょうか?」


「は、はい?」


「自分でも考えてみたのですが大した理由はないと思います。それでも自分が強くなろうとしていると言うことはやはり強くなりたいと心のどこかで思っているのではないでしょうか」


「は、はぁ……」


 質問者がとても困っている。だが安心して欲しい、俺の方がもっと困っている。無理やり答えようと意味不明なことを答えたらそれを庇う為にさらに意味不明な言葉を重ねてしまった。


「で、では直球で質問させていただきます。何故、ライト様はあれだけ死に続けていらっしゃるのですか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る