第970話 水中戦


「ん、誰だ?」


 何もないところで光が発生し、水も魚も消えてしまうという怪奇現象が起きた後、俺は気持ちを切り替えて下の階に向かった。すると、そこにはまさかの人間がいた。格好からして恐らくプレイヤーに間違いないだろう。


 だが、もしかしたらNPCの可能性もあるかもしれない。そしてNPCだった場合なんらかのクエストを貰えるかもしれないからな、一応注意しておこう。


「あっ、やっと助けが来てくださいましたわ! 私、ここでずっと遭難していましたの!」


 んーなんかわざとらしいな。でも、そのわざとらしさがNPCっぽいと言われればそうとも取れるが、それにしてはリアリティに欠ける気がするんだよな。


 俺が真偽を確かめようとじーっと見つめていると、


「あのー、どうか私を助けていただけないでしょうか?」


 と、向こうから発言してきた。ふむ、これでコイツがどちらか分かったぞ。今のは沈黙に耐えられなかった人間感があったし、何より困っているNPCならここでクエストが発生するはずだ。


 クエストが発生しなかったということはつまり、コイツが困っていないNPCであるかもしくは、困っているプレイヤーかのどちらかだ。どちらにせよ俺が助ける必要はないな。


「え、やだけど」


 俺は一刀両断に断らせてもらった。そもそも、プレイヤーであるなら、俺が大胆不敵なショートカットをしたというのにも関わらず俺よりも先にいるという時点で怪しさの塊なのだ。


 ここまで来れているというのにどうやって遭難したというんだ? 近くに敵もいないし、敵がいたら疾の昔に死んでいるだろう。装備も悪くないから、遭難した、というよりも待ち構えていた、と言われた方が自然なくらいだ。


「え?」


 そして目の前の人間は戸惑っていた。仮にNPCだとしたら俺の言葉の意味を瞬時に理解して悲しむはずだ。それなのに、受け入れられていないということは、助けてもらえると思っていた人間だという証明だろう。


 もういよいよコイツがプレイヤーであるという証拠しか見つけられない、ってかそうとしか思えない状態まできた頃


「お、お願いしますわ! どうか私を外まで出していただけませんか?」


 と更に食い下がってきた。んー、コイツの狙いは俺を外に出すことなのか? 分からんな、そんなことをして一体何になるんだ?


「待て、そんなことをして俺に何のメリットがあるというんだ? それに助けて欲しかったらもっとこちらに情報を渡すことだ、隠し事をしているのに助けろだなんて厚かましいにも程があるんじゃないか?」


「……!」


 お相手さんは目を見開いて驚き、そして項垂れていた。


 俺はそんな彼女に見向きもせず、下の階に降りた。ん、ってか彼女は一体何者だったんだ? カッコつけて降りずにちゃんと事情を聞けば良かった……ま、いっか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る