第967話 水中の光


 海馬が大量の小魚をしばいて尻尾をブリンブリンに振った後、俺たちは次の階層に足を進めていた。だが、次の階層は先ほどと変わらず、いやむしろ弱体化しているような内容だった。


 敵が魚というのは変わらないのだが、その数は減り、一匹一匹が巨大化していたのだ。全体の質量で見ればこちらの方が大きいのだが、そもそも質量で比べてしまったら海馬が圧倒的だ。


 さっきは相手が小魚でしかも連携をされたから一瞬苦戦したのであって、今度は手こずる理由が見当たらなかった。小魚をおつまみ感覚で平らげてしまった海馬を尻目に次の階層に向かおうとした時、俺は突如として違和感を感じた。


 何かのスキルが発動したのか、それともただの直感か、俺と海馬だけの空間に何故か異物が混入したような感じがしたのだ。


 だがまあここは敵のホーム、そんなこともあるかと思い気にせず進もうとしたら目の前に大量の小魚が出現した。


「ん?」


 この魚達もどこか違和感がある。何故、このタイミングで出現するんだ? 第二ラウンドがあるのだとしても普通、全員倒したらすぐ現れないか? こんな微妙なタイムラグをわざわざ発生させるのはなぜだ?


 間髪入れずに第二陣を突撃させた方が相手を消耗させられるだろうし……相手の意図がよく掴めないな。


 まあ、いいか。そう思った時だった。今度は先ほどの違和感と同時に水中に波ができたような気がした。海流か? これも新たなギミックということなのだろうか?


 だが、その後に続く波はこなかった。さっきから一体どういうことなのだろうか? 何もかもが中途半端に思えて仕方がない。俺の気のせいだと言われればそこまでだが、それにしても俺のセンサーがビンビンに反応してしまっている。


 いよいよ俺の意識が目の前の海馬の食事にではなく、怒濤のように押し寄せてくる違和感に埋め尽くされそうになった時、決定的な出来事が起きた。


 ピカッ


 俺は、一瞬の出来事だった。俺の視界の端で何かが光ったのだ。あまりに一瞬すぎてそれが何かはわからなかったが、俺は間違いなく確信したアレが違和感を引き起こしている正体だと。やはりこの場に何かがいたのだ。


 俺はそれを突き止めようと光の元に行った。だが、そこには何もなかった。地面をよく見ても周りを良く見渡しても何も見つけられなかった。そして、


 ピカッ、また先ほどと同じように何かが別の場所で光った。またもや一瞬すぎてわからなかったのだが、俺はまたそこに駆けつけた。だが、何も得られなかった。


 これは今一体何が起きているんだ? 俺は今何をさせられているのだろうか? 俺はもう敵の術中にはまってしまっているのか?


 ピカァッ!


 俺の頭がこんがらがって、思考の海に沈みかけた時に今までで一番大きな、目が眩むほどの光が生まれた。


 そして、目を開けるとそこには……


「え?」


 水が、無い……!?


 そう、あの光が収まった後、小魚も水も、さっきまで俺を襲っていた違和感も全てが消え失せていた。


 ちらりと海馬の方を見やると海馬は何のことだか分かっておらず、キョトンと首を傾げた。当然それだけでは海流は発生しなかった。

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